平成31年2月23日
笠堀烏帽子岳
私自身、ここ近年の正月は朝日連峰に通っており、正月の朝日連峰を登るには苦しいラッセルや激しい地吹雪等、とても言葉では言い表せないほどの厳しい条件を克服しなければならず、そのために急造ではありますが秋口辺りから自分なりにトレーニングを積むようにしておりました。
ところがそのトレーニング中にふくらはぎを肉離れしてしまい、残念なことに今回は正月の朝日連峰を断念せざるを得なくなってしまいました。
肉離れについて、これがまた意外とやっかいなもので、発生は12月初旬のことでしたが、1週間もすると痛みがなくなり普通に生活できるようになり「もしかしたら正月に朝日連峰に行けるかもしれない」といった希望を持つようになってしまいます。
確かに今まで念入りに計画と準備をし、自分なりに課したトレーニングを重ねていたわけですから、なかなか諦めがつかないもので、そんな心理をあざ笑うかのように再発を繰り返す肉離れという怪我は非常に残酷なもので、痛みがなくなると、またトレーニングを再開し、そして肉離れが再発して悪化の一途を辿る、といったことを繰り返しておりました。
そしてとうとう動くことを諦め、痛みが治まってもじっと安静を保ち、いよいよ本格的に癒えてきたと思う頃、訛った体を少しずつでも動かそうと、村上市の臥牛山に登ってみたところ、冬ばれの素晴らしい天気に誘われてか、村上市民憩いの山は多くの人で溢れておりました。
その中には女子高生のグループがいて、凍った足元に「キャーキャー」と叫びながら歩いている横を私は颯爽と駆け抜けてみました。
するとどうでしょう「あの人凄いよ」といった会話が聞こえてきて、私は女子高生の一躍人気者になっているようでした。
調子に乗った私はその時だけ涼しい顔を装い、華麗に爽やかな風のように何度も往復して女子高生グループの脇を駆け抜けたわけですが、肉離れは見事に再発してしまいました。
なんだかんだ、なかなか良くならない肉離れではありましたが、結局この冬は正月山行どころか山に登ること自体を諦めることとしました。
そんな折、2月の後半に暖かな日が続くようになると、ふくらはぎ肉離れはまだ多少の不安がありましたが、ぼちぼち山に登るようになりました。
そして以前から登ろうと考えていた笠堀ダムを見下ろすように聳える烏帽子岳へと足を運んでみました。
この笠堀烏帽子岳は、多くの方々に笠堀ダムから登られているようですが、今回は笠堀集落から延びる尾根を登ることにしました。
何度かこの辺りの山を訪れているときについでに登れそうな尾根を見ておりましたが、どこも悪そうな場所がいくつか見られ、うまく通過できるかが問題でした。
季節は冬と春の境目、暖気と寒気がせめぎ合う中、寒さが減退する兆しが見え隠れするようになり、これから暖かくなるといった予感を秘めた新潟の空模様の中、私は国道289号線を笠堀集落に向かって車を走らせておりました。
景勝八木鼻を過ぎて笠堀集落手前から取り付こうと、予定していた尾根の前まで来てみたところ、今まで何度も訪れていたにもかかわらず気にかけていなかったのですが、どうやら付近一帯は私有地のようであり、そこを通らないと尾根に取り付くことができません。
地主様を探して許可をもらうのも大変ですし、結局予定していた尾根よりもさらに笠堀集落から離れた塩野淵集落へと曲がる道路の辺りから派生する尾根に取り付くことにしました。
ここからスタートする場合は、距離が長くなりますが緩やかに派生する尾根は幾分歩きやすくなります。
まずは遠くに見える588m峰に向かってラッセルを開始しますが冷え込んだ空気で足元は凍り、あまり沈み込むことなく進んで行くことができます。
この日はスノーシューを着けておりましたが、すでにスノーシューの時期は終わり、ワカンに切り替える時期に入っているようでした。
歩いていると兎が目の前を横切り、カモシカが尾根の先から急に逃げ出し、動物の多いと感じます。
そういえば笠堀はカモシカの生息数が多く、カモシカの楽園と呼ばれているそうで、この山域に入り込めばカモシカに会う機会も多いのだろうと感じました。
588m峰の登りはかなりの急坂となっていて、雪も落ち地面が露わになっております。
地面が出てきて初めて気が付きましたが、そこには踏み跡が見えますし鉈目や切り付けも確認できます。
古いものではありましたが道を手入れしたような跡もあり、荒れてはいるものの以前は明確に付けたと思われる踏み跡には少々驚いてしまいました。
588m峰からいよいよ核心部へと突入しますが、まずは大きく下ります。
急な下りではありますが、しっかりと雪が着いていてそれほど怖さはありません、登り返しを考えて小刻みにしっかりとステップをつけながら下りきりました。
その後、三度ほど上り下りを繰り返しますが、この区間が一最大の難所となりました。
ちょっと怖い痩せ尾根と踏み外せば一巻の終わりといった岩場を2ヶ所ほど越え、いよいよ山頂に向かって最後の急登の下に降り立ちます。
あまりの急斜面に雪はほとんど落ちてしまい、露わになった笹と灌木の藪尾根には以前に付けらたであろう踏み跡は僅かに確認できる程度のものとなっております。
この急斜面を喘ぎながら登りきると、尾根は雪原となって緩やかに山頂へと導いてくれます。
そしてこの広く緩やかな斜面をしばらく進むと狭い笠堀烏帽子の山頂に出ることができました。
山頂からは鉛色の空の下に川内の山々と下田山塊が広がり、左に粟ヶ岳と白根山、右には光明山と奥に守門岳が聳えております。
川内の山は灰ヶ岳辺りがよく見え、下田山塊は秘境毛無山が遠くに確認できます。
まるで近年の登山ブームから隔絶されているかのような静まり返った山頂は、時折吹く風の音しか聞こえてきません。
私はこの心細くなるほどシーンとした静けさに包まれた山が好きです。
人里近くに聳え、眼下に笠堀ダム湖を従えたこの岩峰の烏帽子山は奥深さこそありませんが、とても静かな山旅を楽しむことができる山だと思いました。
コースタイム
塩野淵集落曲り角 2時間 588m峰 1時間45分 山頂 1時間10分 588m峰 40分 塩野淵集落曲り角