海谷山塊 鉢山

 

平成29年5月27日

 

 

 

5月19日~20日に、飯豊の門内小屋の状況を見るために職人さんを連れだって視察に行ってきたのですが、ゴールデンウィークの疲れが残っていたのか非常に体調がすぐれずいつものように歩くことが出来なくて、たかだか門内まで行くのに非常に難渋をして行ってきた次第です。

 

連休山行で傷めた靴擦れはまだ痛み、捻挫した足首も痛いままでしたが、それにしてもどうしてあの時はあんなに疲れたのだろう・・・、なんだか自信がなくなってしまいました。

 

 

 

そんなこともあって本当は5月21日の日曜日に海谷山塊の阿弥陀山か鉢山に行く予定にしていましたが、一週間後の27日か28日に変更することにしました

 

 

 

海谷の山を訪れるのは4月の昼闇山に続いて今年2回目となります。

 

細長い新潟県の北から南へ・・・、同じ新潟県内とは言え低燃費車を所有していない私にとってガソリンが高騰した今、そこに高速料金も含めた予算を考えるととても気軽に行けるようなところではありません。

 

 

 

海谷山塊と言えば新潟県内では川内山塊と並んで秘境と称されているところで、全国的に有名な山岳地帯となっているところです。

 

規模としては川内山塊に比べれば非常に小さな山塊ですが、あのV字谷と言われる急峻な谷と異様と思えるほどの凄まじい断崖絶壁の光景に圧倒され、そこに奇形奇岩を擁しながら聳えている峰々は非常に魅力に満ち溢れているところであります。

 

家から遠いので気軽に訪れることが出来ないのが残念ですが、海谷のメインである駒ケ岳から鬼ヶ面山と鋸岳にかけては登山道が整備されているので一応それらの山は登山の対象外となり、登山道が整備されていない阿弥陀山、烏帽子岳、鉢山、昼闇山あたりが私にとって登山対象の山となっており、その4座に絞り込んで海谷の山を探訪したいといった考えでおりました。

 

遠いけれど4座といった狭い範囲でしかありません、何度か訪れて自分なりに山を探って納得できるまでにはそう時間はかからないであろうと思っておりました。

 

そこで今回、再び海谷山塊を訪れる運びとなったわけでありますが、前述した疲れがどうなっているものか、体調の回復具合に一抹の不安を抱きながら今年2度目の海谷訪問となりました。

 

 

 

山行当日

 

それまで雨が降らなかった反動からか、26日の夜は豪雨に見舞われた新潟県。そんな豪雨をもたらした雨雲の影響は27日の朝方まで続きました。

 

27日の天候は回復傾向にあるのでしょうけれど、山にはまだ黒い雲がかかっていて、昨夜の大雨の影響で河川も随分と増水しております。

 

私は阿弥陀山に登るつもりで海谷渓谷の三峡パークへと行ってみましたが三峡パークを流れる海川は濁流と化しており、阿弥陀山に登るにはこの海川を渡渉するところがあるので、今日のところは大事をとって鉢山に登るということに変更をしました。

 

予定より随分遅くなってしまいますが仕方がありません、三峡パークの裏側にあたる早川谷の吉尾平に向けて車を走らせました。

 

 

 

吉尾平へ至るには通称砂場林道という林道を走るのですが、入口がよく分かりません。

 

砂場集落から奥に向かって進むも、いくつもの別れ道があってどこを行けばいいのか非常に分かりにくく、車の返し場所がないような非常に狭い道を何度も右往左往しながら、それでも何とか吉尾平の手前まで車を乗り入れることができました。

 

林道は悪場の通過が多く有り、車の腹が擦るようなところも途中で2ヶ所ほど通過し、3ヶ所目の擦りそうな場所で進むのをやめ、たまたま手前の路肩が広くなっていたのでそこに車を停めて、遅くなった時間に慌てながら歩き始めました。

 

 

 

約10分程度歩くと景観が開け、そこには避難小屋と付近を案内する標識があり、ここが吉尾平だということがすぐに分かります。

 

吉尾平から先は雪原となっていて、山菜採りの4輪駆動車がここまで乗り入れられておりました。

 

その山菜採りの人が「こんなに雪が多いようではダメだ」といって帰るところでしたが、挨拶をすると、山々を指さしながら「あれが鉢山で、あれが阿弥陀であれが烏帽子だよ」と教えてくれ、さらに「持って行け」と言いながら地元機関発行と思われる地図を譲ってくれました。

 

 

 

これから登る鉢山はとても近くにあり、どういったルートで行くか下から仰ぎ見て、あれこれ思案しながらしばらく雪に埋もれた林道を進みました。

 

予てから私が考えていたルートは早川谷西尾野川の雪渓を辿るものでしたが、スノーブリッジはすでに崩れ落ちていて、雨上がりの濁流が轟々とけたたましい音を立てて流れていて、そんな沢筋を遡上していくことはとても不可能で、尾根などを使ってしばらく上流まで登って行き、雪渓まで辿り着くほか手立てが見つかりませんでした。

 

尾根に取付くも藪と化した尾根は時間と体力を消耗します。

 

小さな沢筋に雪渓を見つけてはそこを登り、雪渓が詰んだらまた尾根に登り返し、そして再び雪渓を見つけるといったことを何度か繰り返し、徐々にトラバースをしながら斜面を登り詰めると、やがて1408m峰の大きな岩峰が目の前に現れるようになります。

 

この岩峰の右側に出ると、眼前には大きく広い雪渓が稜線上の鉢山鞍部まで続いているのが見え、「これで勝負あり、あとは時間の問題」といった不文律の言葉で私の心は埋め尽くされました。

 

ここまで来れば鉢山の山頂は手中に収めたようなもの。

 

心に余裕ができたところであたりを見渡すと目の前には鉢山が大きな岩の塊となって立ちはだかっており、この岸壁には灌木が生い茂っているので何とか直登も可能のように見えます。

 

わざわざ稜線鞍部まで回り込んで行かなくても、そちらの方が断然近道です。

 

また横に目を向けると鬼の角のような山容をした阿弥陀山が手を伸ばせば届きそうなほどの位置にあります。

 

鉢山から阿弥陀山に続く尾根を眺めていると、ここから何とか阿弥陀山にも登れそうに見えます。

 

とりあえず今日のところは確実に予定していた稜線鞍部から藪尾根を伝って鉢山に登りますが、この景色を眺めているといつかこのルートからも鉢山や阿弥陀山に登ってみたいと思いました。

 

 

 

1408m峰と鉢山の岸壁から崩れ落ちてきた落石が転がっている、あまり急でない雪渓を登り切って稜線鞍部まで辿り着き、ここからは藪の細尾根の登りとなります。

 

距離はそれほどなく、灌木もしっかり付いているようで岩肌が露出しているようなところもなさそうです。

 

何の不安もなく、ただただ灌木の藪を登りますが、尾根上には時折踏み跡が現れ、それほど古くはない鉈目も多く見られるようになります。

 

山頂手前には雪渓が残っていて、そこにザックを置いて最後の5分間、我慢して藪を漕いで三角点のある山頂へと辿り着きました。

 

低灌木に囲まれた山頂からの展望は360度望むことが出来ますが、先ほどまで見えていた阿弥陀山と烏帽子岳は雲の中に入ってしまいました。

 

しかし焼山や金山、雨飾山といった妙高連山が美しい残雪模様を描き、駒ヶ岳から鬼ヶ面山を経て鋸岳に続く尾根が文字通り鋸刃のような佇まいを見せ、正面には4月に登った昼闇山が大きく高く聳えているのが見えます。

 

 

 

道の無い山は尾根を辿って山頂に至る場合がほとんどだと思われますが、この海谷山塊は沢筋を伝って登るルート工作をしなければならず、それがこの山域の難しさの所以となっているように思います。

 

 

 

そんな難しい海谷の山の一つである鉢山には意外にもすんなりと短時間で山頂に立つことが出来ました。

 

ただ、私が辿ったルートは一番的確なものとは必ずしも言い切ることはできません、他にもっと良いルートがあるかもしれません。

 

今年は残雪が豊富で、歩きやすかったことが幸いしたということは確かなようです。

 

 

 

下山を始めるとすぐに辺りは一面ガスに包まれてしまい、視界が利かない中で沢筋の下りなので特に道迷いに注意しながら無事に吉尾平へと戻ることが出来ました。

 

そして帰りの林道でも車の腹を2度擦りながら砂場集落へと至りました。

 

 

 

夜は再び阿弥陀山を登るべく三峡パーク駐車場へ。

 

三峡パークに到着するとバーベキューをしている人が何組かいて、テントが5張ほど見えます。

 

雪解け直後の山間も、5月の陽気に誘われて賑やかさを増しているようです。

 

今晩はこの三峡パークの駐車場で車中泊をしようと思っていて、こんな人里離れた山間の地では夜になると妖怪七変化が現れそうで少し嫌だったのですが、これでは夜の静寂に恐怖を抱きながら眠りにつかなくてもよさそうです。

 

そんな華やかなキャンプ場の傍らで私は、明日登る阿弥陀山に備え早々に床につきました。

 

そして翌朝、私は海川沿いに付けられた電化工業の作業道に向かって宴の残香と朝霞漂う三峡パークから阿弥陀山に向けて出発しました。

 

 

 

海川は相変わらず増水しておりましたが、何とか2ヶ所の渡渉点をクリアし阿弥陀沢の出合へと到着。

 

ところが阿弥陀沢はすっかり雪解けが進んでいて、下部はかなりの大藪となっております。

 

また途中の雪渓もズタズタに切れているのが見え、これではとてもここを登ることができそうにありません。

 

「しまった!やはり昨日の早川谷から登るべきだった!」後悔してもあとの祭り、今から吉尾平まで向かったのでは時間的に無理のようです。

 

しかもちょうどその頃から山には黒い雲が垂れこみ始め、天気的にも悪化の兆しが見え隠れし始めました。

 

まあ今回は目標のひとつである鉢山登頂に成功した訳ですし、今日のところは潔くこのまま帰ることにしました。

 

 

 

非常に山行記録の少ない阿弥陀山ですが、この阿弥陀沢を伝って登るルートは「越後百山」という本によって脚光を浴び、今では多くの人が訪れるようになったルートであろうと思います。

 

 

 

阿弥陀山の挑戦は来年に持ち越さざるを得なくなりましたが、今後は比較的記録が多くあり確実性の高い阿弥陀沢を登るのか、面白さと満足感の大きい他のルートを工作してそこを辿るか、よく考えて再挑戦をしたいと思いました、またいろいろなルートも開拓してみたいと思いました。

 

それから、三峡パークまで戻りながら断崖絶壁の仙丈ケ岳を眺めながら「あの山にも登りたい」と思い始め、また近くの舟浦山にも登りたくなってしまいました。

 

 

 

私はどうやらこの魅力ある海谷山塊の迷宮へと迷い込んでしまったようです。

 

この山域は訪れるたびに新たなる可能性が見出され、しばらくそれはとどまることがなさそうです。

 

「困りました、こんな遠いところ、経費が嵩んでしまいます。」

 

とりあえず今回の帰りは経費節減のため高速道路を使わずに家へと帰りました。

 

 

 

 

 

海谷の山々は記録が少なく、数ある名著、山岳書あるいは地誌や郷土史といった書物の中に、海谷に聳える峰々の記載を見ることは大変に少ないです。

 

その中でも特に鉢山と昼闇山の名前を見ることはほとんど無く、昼闇山は近年に名前が付けられたので古い書物に記載がないのではないかとのことですが、鉢山に関しても地元の人たちが五葉松や槇柏の樹木を採取するために訪れることがあるといった程度のことしか書かれていないようでした。

 

山名も鉢を伏せたような山容からきているといった単純なものですし、山岳信仰の形跡もなく、そんなことから山麓民との繋がりも薄い山であると思います。

 

それから山行報告や紀行文といった記録も極端に少ないもので、それだけここを訪れる登山者も少ないものだと思われます。

 

そんな秘境ムード漂うこの山域から、私はしばらく離れられそうもありません。

 

 

 

コースタイム

 

吉尾平 25分 雪渓取付き点 2時間 稜線尾根 30分 鉢山 30分 稜線尾根 1時間30分 雪渓取付き点 25分 吉尾平