飯豊アゴク尾根~エブリ差~足ノ松尾根下山
平成28年5月8日
私は会社で事務員と仲が悪く、事務所の机の配置も「とにかく事務員の顔を見たくないから一番離れた場所にする」と言って無理やり事務所の一番奥の隅に机を置いてそこで適当に仕事をしている次第です。
この場所は事務員はおろか誰からも見えにくいところで、私が一生懸命に仕事以外の作業に励んでいたとしても誰にも気づかれない、そんなとても調子の良い場所でありました。
さて、そんな私がたまたま置いた席から目の前にある窓の奥には飯豊連峰が大変に良く見えます。
一番手前にアゴク尾根がぼこぼこと瘤を並べながら緩やかに櫛形山脈の奥へと尾根を落とし、その奥には門内岳、さらにその奥に一際大きく大日岳が聳えているのが見えます。
それらの峰々を毎日眺めては山の状況を確認することがいつの間にか日課となっておりました。
今年は少雪だったうえに春の訪れが早く、雪解けが進んで登山適期は非常に短い年となってしまいました。
2月頃から休日は概ね晴れ間がのぞいたりして、ある程度の山行はできたように思いますが、ゴールデンウィークだけはずっこけてしまいました。
あの天気ではせっかくの連休も今年は思い通りにならなかった方も多くおられるのではないでしょうか。
そんな中、5月も連休が終わり私の登山シーズンもそろそろ終盤を迎えております。
これからの季節、陽射しが増すにつれ山の草木は元気になり、稜線には花々が咲き始め、日を追うごとに藪が深くなっていきます。
それに人ばかりが多くなり山は山らしさを失っていき、静かな山を求める私にとっては受難の季節となってしまうわけです。
この山行がもしかしたら今シーズンのちゃんとした山登りとしては最後になるかもしれません。
登山適期が間もなく終わるということとゴールデンウィークで思うような山行が出来なかったフラストレーションを爆発すべく、まだ人があまり入っていない奥胎内からアゴク尾根を登ることにしました。
今回の山行は珍しく同行者がいます。
私はほとんどいつも一人で山に登っています、理由は様々ですがとにかく一人は自由です。
風の吹くまま気の向くままに山を楽しんでおります。
つい最近までは私にとって山仲間は不要である、山仲間は多くなると面倒だし、ましてや組織などに組み込まれてしまえばもっと面倒だと、そんな非常に生意気なことを考えておりました。
しかしやはりどんなに強がっても人は一人では生きていけないわけでありまして、山の世界でも同じことであると思うことも確かです。
自分でも気が付かないうちに人に世話になっているようなことが多く有ったりして、人の有難さというものももうちょっと考えるようにならなければならないと思うようになっております。
それは自分が年と共に体力が低下して弱くなっているから何かあった時のためにだとか、年をとったら無理のない山登りに切り替えて友達と山を楽しみたいなどといったそんなつまらない理由からではなく、山を楽しむばかりでなく仲間とのふれあいも楽しみに付け加えたいといった考えが私の中に芽生えてきているように自分では感じております。
そもそも幸いなことに私には下越山岳会といった大きな組織があり、こんな私でも細々と仲間に入れていただいているということは非常にありがたいことであります。
ただ山の世界なのでできれば人と向き合うのではなく山と向き合いたいと思うのが本音でもあり、できるものなら人とのしがらみといったことにしばられず黙々と山に登っていたいと思うのですが・・・、それはやはりわがままなのでしょうか。
まあ各地の山岳会がリードして山を整備したり行政と連結して山の行事を行なったりして山を維持していかなければ成り立たない部分もあるようなので、どうしても山の世界といえども人間社会は付きものとなってしまうのでしょうけれど・・・。
まあなんだかんだいって、とにもかくにも気の合った山仲間が必要以上にはいらないと思うのですが、数人程度いたらいいなと考えるわけです。
だからといって安易に彼を誘ったということでもないのですが・・・、彼は体力があり、今までの例からしても一緒に行ってもまったく問題がないどころか私が足手まといになるのではないかと思うほど大丈夫だったので今回はまた誘ってみることにしました。
それにしても今の若い人は岩登りやらトレランやらそちらの方が格好良く見えるらしく、多くの人はそちらに目を向けがちなのに、草木にまみれて泥だらけになり、こんなみっともなくて格好悪い藪歩きに興味を持った彼はなかなかの好事家なのでしょう、将来は変わった人の第一人者になってもらえればと期待をしているところであります、とはいっても話を聞くとまだまだ彼は正統派に近い面も多々あるようで、変わり者という点では私の域にはまだまだ達していないようですが・・・。
この文章を掲載する前に彼に問い合わせてみたところ「実名を書かれても構いません、今風のイケメンという風に書いてほしい」とのことでした。
ネットは世界中の誰でも見ることができ、それだと世界の人たちに大嘘を書いてしまうことになりますが、まあここは要望なので仕方がありません。
彼は新潟ゆきみの会の佐藤さん、もちろん男性で今風のイケメンだそうです。
さて今回はそんな佐藤さんと会社の私の机の窓越しから真正面に見えるアゴク峰を登ってきたわけですが、ここは飯豊のバリエーションルートとしては比較的多くの人に登られているようです。
ルートもかなり昔からあったようでいつ誰が付けたものか、それほど明瞭ではありませんが踏み跡もしっかりとついています。
私自身、実を言うと大昔にここを一度だけ登ったことがありました、でももうほとんどその時のことは忘れてしまっております、そんなこともあってまた訪れたいと思っておりました。
まだオープン前の胎内ヒュッテの向かい側の尾根に遊歩道がつけられており、まずはそこを遊歩道にそって登り切ります。
以前よりもしっかりと整備された道が確か鍋倉山だと思いましたが、そこまで続いておりました。
以前はこんなに整備されてなく、山頂には標識まで設置されておりました。
遊歩道が終わるといよいよ藪道となるのですが概ね踏み跡があり、それほど藪地獄というわけでありません。
しかもまだ5月中旬ですのでところどころ残雪も使え、大樽山の手前で少し藪に辟易しそうになりましたが、それほど苦労することなく大樽山に着きました。
大樽山は雪原が広がっていて、これから先の銀名の池やアゴク尾根が良く見えます。
ここから鞍部に一度下りますが、下りきったところをオオダルミというそうで、地元の人たちにでも名付けられたのでしょうか、大樽山の山名もここからきているものと思われます。
ちなみに西俣尾根の途中でもオオドミというところがありますが、あそこもオオダルミという意味であり、鞍部地形となっています。
銀名の池はまだ雪に覆われており、7月くらいになるとようやく池の姿が見えるようになります。
ここを過ぎるといよいよアゴク峰の藪の上り下りが始まります。
日当たりの良い尾根には灌木が勢いよく自生しておりますが、それ以上に人が多く歩くのかそれほど密に入り組んでいません、その中で5番目の突起の登りの藪がやや激しく大変でした。
中間付近を少し越えたあたりが一際大きな突起となっていて、ここがアゴク峰と名付けられた山頂であろうと思います、やや小広い山頂は雪原となっておりました。
アゴク峰の名前についてはいろいろ調べましたが、よく分かりませんでした。
おそらくオオダルミと同様に地元に人たちに何らかの理由で名付けられた山名であろうと思われます。
ここからもまたいくつかの瘤を越えて行きますが、大きな登り下りがないうえに時々現れる残雪にも助けられ、簡単に鉾立峰手前の岩峰へと到着しました。
瘤の数は確か13か14くらいあったと思いました、この瘤群を越えると、ちょっとした岩峰を越えてあとは明瞭な踏み跡を辿ってほどなく鉾立峰に到着、意外にもあっさりと稜線に到着したので、こんな時は嬉しい反面何か消化不良でもと言いましょうか、物足りなさを感じてしまいます。
とりあえず時間が早かったので予定になかったエブリ差岳へと行きました。
そして、そのままエブリ差小屋で昼食を食べて足ノ松尾根を下山し、今回の山行を無事に終えることができました。
同行者の佐藤さんとは「これじゃあ簡単なハイキング山行になりましたね」と会話をしながら帰途に就きました。
今回は予想したよりも簡単に通過することができたアゴク峰ですが、時期的に雪のつき方がちょうど良かったのではないかと思います。
もう少し早ければ全体的に痩せ尾根だったアゴク尾根には嫌らしく雪が着いて通過困難なナイフエッジを形成していたことでしょうし、もう少し遅ければ今度は藪にもう少し苦労をしていたことでしょう。
コースタイム
胎内ヒュッテ 6:30 鉾立峰 0:25 エブリ差岳 0:45 大石山 1:50 足ノ松尾根取付