棒掛山

 

平成29年3月5日

 

 

 

非常にくだらないバカバカしい話なのですが、本当のことなので書かざるを得ません。

 

今回、棒掛山に登るきっかけになった出来事です。

 

 

 

去年の春先、会社の駐車場に二匹の子猫が捨てられていました。

 

二匹の子猫は会社で保管しながら飼い主を捜しましたがなかなか見つかりません。

 

子猫は空になったコピー用紙の段ボール箱の底にタオルを敷いてそこに入れられ、バーベキューで使った焼き網を使って蓋を掛けて保管していたのですが、元気がないのでキャットフードを買ってきて与えたところ、見違えるように元気になりました。

 

元気になると今度は箱から出たがっているようなので、私はこっそり焼き網の蓋を取り除いてあげました、すると子猫たちは会社の中を縦横に走り始めます。

 

他の社員が慌てて捕まえてまた箱の中に戻して今度は大きめのおもしを網の上に乗せます、しかしまた私がこっそりおもしと焼き網を外して猫が脱走し、会社の社員が事務所内で大捕り物をするといったことをその日は一日中繰り返しておりました。

 

 

 

飼い主についてはいろいろ探した甲斐もなく見つけることができず、結局私が二匹を引き取ることになり、その日から二匹の猫との生活が始まりました。

 

子猫の名前は「ぼう」、漢字で書くと「坊」と名付けました、白猫と黒猫だったので「しろぼう」と「くろぼう」です。

 

二匹の猫は時が経つにつれどんどん成長し、悪さもするようになり、台所へ侵入して生ごみなどをあさったりして私によく怒られます。

 

ある日のこと、猫の毛が抜けて服に付くのでガムテープで服をペタペタとやっていると、やつらはまたいつものように台所で餌をあさっていたので「こらー!」と私に怒鳴られ、黒坊の方が逃げようとして私の手に持っているガムテープに激突してきました。

 

しかも粘着面に頭から激突したものですから猫の頭にはガムテープがしっかりとくっ付き、それを剥すと猫の頭の毛が少し抜けてしまいました。

 

黒坊の頭は少し禿げました、ぼうは私の膝によく抱っこされますが、禿げたあと私に膝の中ですやすや眠っております。

 

「ぼうのはげ」と言いながら頭をナデナデして、今度の日曜はどこの山に行こうか考えていたところで「ぼうはげ」から棒掛山が浮かんできたというのが、今回の山行のきっかけでありました。

 

運命とは不思議なものです、まったくひょんなことがきっかけで棒掛山に登ることとなりましたが、これもまた神様の思し召しとしてとらえ、前向きに棒掛山へと向かうことにしました。

 

 

 

棒掛山は津川市街地から大きく見え、非常に良く目立つ山です。

 

登山道こそありませんが多くの人たちに登られている、言わば登山対象とされていないマイナーな山の中でも比較的名の知れた山であると思います。

 

地図を見ると登れそうな尾根はいくつか派生しているもののどれも「帯に短し襷に長し」とでも言いましょうか、必ず一ヶ所ずつ難所があって通過は困難そうでした。

 

ほとんどの人は林道の奥からビールのカッチを通過して登っています、確かにこのルートなら簡単ですが、それでは面白くありません。

 

また新谷からのルートも簡単そうでしたが、林道が閉鎖されているうえ、さらにキャンプ場から5キロもラッセルがあるのでこの時期は避けた方が良さそうです。

 

そこで距離が長くなりますし、地図上ではかなり等高線の混んだ部分がありますが「何とかなるだろう」と思い、国道459号線から直接尾根に取付いて登ってみようと、登山口のある水沢集落に向かいました。

 

 

 

水沢集落に着くと小雨が降っており気温は高めで、たぶん大丈夫かとは思いますが、要するに等高線の混んでいる箇所での雪崩が少し気にかかります。

 

この時期は雪が不安定で、凍ったり、解けたり、新雪が積もったりを繰り返し、ブロック雪崩や新雪雪崩の両方とも危険があります。

 

またクレバスに新雪が積もって口を塞いでいるうえ、雪庇もまだ柔らかいので崩壊する可能性があり、ルートは慎重に選ばなければなりません。

 

 

 

そこでちょっと軟弱ではありましたが、登りは通常ルートに変更し、様子を見て国道にダイレクトに下りれそうなら下りようと、まずは通常のルート目指して林道を歩きました。

 

この林道は未開発地帯の飯豊東側斜面を長走り川に沿って奥深くまで貫く林道で非常に興味深いところでもあり、時間があれば林道の最奥まで探索したいところです。

 

ここから蒜場山に至る、あるいは秘境中の秘境で登頂が困難な烏帽子山に至るなど、地図を見ていると夢が広がる林道であります。

 

 

 

今回は林道を1時間半近く歩きました、重い雪でのラッセルは時間と体力を使います、それにくわえ天気予報に反した小雨の降る林道歩きは精神的にも疲れます。

 

ちなみに私はこんな時でもよほど我慢できない限り雨具は着ません、雨具が雨で濡れるのが嫌だからです。

 

ゴアテックスの雨具は安い物でも2万円以上済ます、そんな高価な物を濡らすわけにいきません、そんなことで今回も雨具を着用することはありませんでした。

 

なんてこんなことを書くと読まれた方にお叱りを受けそうですが、もし濡れた場合の対策もちゃんと準備して登っているので怒らないでください。

 

それにね、まあどうせゴアテックスの雨具と言えども、着用すれば蒸れて濡れて大して変わらなくなるわけですからねえ・・・。

 

 

 

林道を歩いていると、だんだん面倒になってきて本当は取り付く尾根がまだ先でしたが、適当に左の尾根に入りました。

 

雨も止み、徐々に景色が見え始めてきましたが、山頂付近はまだガスの中のようです。

 

広めの尾根にブナの林がいかにも雪国の山といった感じがします。

 

目の前には徐々に大きな960m峰が迫ってきます、ここの登りが最大の難所であろうと思っていました。

 

長い登りを終えると雪庇が張り出した狭い山頂に出ます、この時点で山々はまだガスに包まれておりました。

 

ここから一気に下り、最低鞍部まで到達し何気に歩いていると「ズボッ」と首まで落ちました。

 

クレバスに落ちたようで、恐る恐る下を見ると足がかろうじて枝に掛かった状態で止まっておりました。

 

ここで初めてここは地図では分からない痩せ尾根で、そこに雪庇が形成され、さらにガスが湧き視界不良となって、形成された雪庇を広い尾根だと勘違いしていたことに気が付きました。

 

おそらく雪の状態が良ければクレバスの場所が分かり、雪庇も安定するのでしょうけれど、今日はなかなか危険な日のようです。

 

ここから暫し注意をしながら進みますが、雪庇のある側を避けて片方の斜面を進むも結構な急斜面のうえクラストしていて非常に歩きにくかったです、もしこれがワカンではなくスノーシューだったら脱いで通過しなければなりませんでした。

 

柔らかく軽くて深い真冬の雪質と違って、気温の変化や風の当り具合になど、場所によって雪質が変わってくるのは春が近づいている証拠です。

 

良いのか悪いのか、山に登っていると妙なことから春を感じるようになってしまいます。

 

 

 

ゆっくり足元を確かめ時間をかけてビールのカッチへの登りに到着しました、ここからは広い斜面を登るだけです。

 

そして斜面を登りきるとそこはブナ林に囲まれた広い雪原となっており、山頂までただただ平原がどこまでも続いているだけでした。

 

ブナの木々は細く、大木は無いのですが広い雪原は安堵感があります。

 

そんな雪原を方向を確かめながら歩き、ほどなくして山頂に着きました。

 

しかし山頂付近はガスが徐々に取れてきているものの、いまいち見晴らしがききません。

 

北側斜面はブナ林に覆われていますが南側斜面は遮るものが無く、景色は良いものと思われます。

 

 

 

下山はこの春先の雪質を考えて、無理をしないで往路を戻ることにしました。

 

面白くなく軟弱ですが、またいつかの機会に別ルートを登ろうと思います。

 

そしてビールのカッチまで戻った頃、ようやくガスが晴れて下界や周囲の山々を見渡せるようになりました。

 

 

 

今回、棒掛山に登って思ったのですが山岳崇拝や信仰と言った形跡がまったく感じられません。

 

津川市街地からは良く見える山なので山麓民と何らかの関わりがあってもおかしくないと思います。

 

古い書物などにもそれに関することを見つけることがでませんでした。

 

それにしても棒掛やビールのカッチなど変な地名です。

 

地域によっていろいろな言い方があるようですが、棒掛とは農作業の一つで稲を乾燥させる作業のことをいいます。

 

ちなみに私の住んでいる町では「はさば掛け」と言っています。

 

 

 

調べられなかったので、まったくの憶測となってしまいますが、ビールのカッチから山頂に続く広い尾根を田園に見立てて、今では乾燥機を使うのであまり見なくなりましたが農耕作業の稲を乾燥させる棒掛を当てたのではないか、要するに山頂には農業の神様がいて、山麓の人たちは山の雪解けの景色を見て農作業の目安としたのではないかと考えました。

 

また、ビールのカッチのカッチは言わずとも頭ということは分かるでしょう。ビールは近くの蒜場山と同様に蒜の字があてられ、蒜とは広いという意味だそうですが、ビールのカッチは蒜の頭の可能性ということが考えらえます。

 

あるいは、ただ単に広い頭が訛ってビールのカッチになった可能性も考えられます。

 

越後野誌にはビールのカッチなのか960m峰かは判然としませんでしたが、八方山という名前が棒掛山と同じ高さの連山として出てきます。

 

 

 

私は葡萄山塊や奥三面、女川といった山形県境に近い、新潟県の北部に位置する峰々に面白さを感じて、それらを多く登ってきましたが、今回の棒掛山は東部に位置する福島県側近くに聳える山です。

 

明治期までは福島県の会津領だったこの地ですが、もう少し調べる価値がありそうだと思って棒掛山をあとにしました。

 

 

 

コースタイム

 

水沢集落林道入り口 1時間40分 尾根取付きヶ所 2時間30分 ビールのカッチ 25分 山頂 20分 ビールのカッチ 1時間50分 尾根取付きヶ所 1時間20分 水沢集落林道入り口