4月25日~26日

 

朝日連峰 石見堂山~赤見堂山 他

 

 

 

いきなりこんな話をしてもにわかには信じられないことでしょうけれど実は私はロッカーなんです。

 

ロッカーといっても岩登りをする人のことではなく、ましてや物を入れておく鍵付きの箱のことでもなく、音楽のロックンロールを演奏する人のことです。

 

誰もが私のことを山ばっかり登っている山オタク、いや山オソトだと思っておられることでしょうけれど実は全く違うんです。

 

しかし数年ほど前から私はひっそりと音楽の世界から身を引きました、というか引かざるを得なくなってしまったのです。

 

ロッカーと言えば長髪を振り乱しながら一心不乱に楽器を演奏し歌うものなのですが、私にはもう長髪ができません。

 

 

 

私は20代の頃バンドをやっていて新発田文化会館で演奏をしたこともありました。

 

しかし髪の毛が減るに従い音楽活動は徐々に遠ざかり、現在は絶滅が危惧されるほど貴重になった私の髪の毛と比例するようにギターを手にすることは稀になってしまいました。

 

そして髪の毛が少なくなると同時に人前に出ることを避けるようになり、人里離れた山へと入り込むようになり、髪の毛の減少と共にどんどん奥地へと追いやられるようになりました。

 

そんな折、数年前に近くのデパートに楽器屋さんが入りました。

 

それ以来私は店の前を通るたびに遠巻きに陳列されているギターを眺めてはため息をつく日々が続くようになりました。

 

ギブソンレスポールスタンダードというヴィンテージ物のギターに憧れ、その美しい木目のギターは陳列されている物で¥225000円の値札が張りつけられております。

 

通常、高いものですと¥100万円や¥200万円など平気でするギターです。

 

 

 

ある日のこと今まで私にとって禁断の地だった楽器屋さんでありますが、思わず足を踏み入れてしまいました。

 

すぐさま「試し弾きしますかー?」と言いながら店員さんがやってきました。

 

私は「いや、髪の毛がダメなので無理です」と断りましたが、その商売っ気の無い店員さんは熱くギターを語り始め、私も髪の毛が多かった頃を思い出し、ついつい長話をしてしまいました。

 

そして帰り際にはピックをもらうほど話は盛り上がってしまいました。

 

これを機に私は「再び表舞台に立ち脚光を浴びたい、これをキッカケにもう一度ギターを始めようか、陽のあたる場所へと戻ろう」、そして「どうせなら山でギターを弾きたい」強くそう思うようになったのです。

 

山頂でギターなんか迷惑かも知れない、しかし以前に安達太良山山頂でおそらく地元のお母さんたちだと思うのですが、智恵子抄を歌って周囲の登山者から拍手喝采を浴びていたことを思い出しました。

 

きっと大丈夫、いつかエレキギターとギターアンプを持って飯豊や朝日に登りたいです。

 

ただ電源はどうしたらいいものか、それだけは気になるところですが、まあそこはあまり細かいことは考えないことにしました。

 

 

 

そういえば山行の話ですが、今回は朝日連峰前衛の山々として残雪期に登られている石見堂山と赤見堂山を中心とした山行を計画して行ってきました。

 

ただ石見堂山と赤見堂山は通常ルートはないものの通好みの山として人気があり、朝日連峰のバリエーションとして多くの方々に登られているようです。

 

私としてはそんな人気のところに行っても少々面白味に欠けるような気がするので、桧原集落から石見堂山に登り、赤見堂山を経て枯松山、大桧原山、紫ナデ、ヨウザ峰を通過し桧原集落に下山するといった周回ルート歩こうと企てました。

 

 

 

いくら通の方が多く訪れるとはいえ、いわゆる登山道の整備されていないところでありますから通常より静かなところであるにくわえ、このルートであればさらにより静かな山々を楽しめるでしょうし、ましてやギターを持参するなどもってのほかであろうと思いましたのでギター持参はいつかの機会に見送りました。

 

というかそれ以前にもう弾けなくなっているので練習しなければなりません。

 

 

 

それにしても今までの私自身の山行に比べて今回の山行は随分と気楽でした。

 

多くはないものの他の人の記録があり、それに地図を見ても歩きやすそうな尾根ばかりで「今回はちょっと楽ができそうだなと」気軽に構えておりました。

 

ただひとつだけ懸念していたことは、ここ数日異常なほど暑い日が続き、それによって藪が出ている可能性があるということでした。

 

朝日連峰の藪は灌木と笹に覆われ非常に密度が濃く、私自身その洗礼を何度も受けていて、あの藪に掴まったらもう先に進むことは諦めざるを得なくなるということは重々承知しておりました。

 

少々なら仕方がないことでありますが、藪が長く続くようなら敗退を余儀なくされてしまうことのみ心配しておりました。

 

 

 

4月25日

 

予定通り桧原集落から適当に尾根に取付いてから最初のうちは少々の藪を漕ぐものの、広い尾根に雪が落ちずにいつまで残る残雪は、予想通り僅かに登ってすぐに現れはじめました。

 

尾根はどこまでも広く悠々と散歩気分で歩くことができます。

 

最初は雪が無くなるところが時々ありましたが、そんなところでもはっきりとした踏み跡が付けられています。

 

しばらく登ると大きな石見堂山の姿が見えるようになります。

 

右手にはさらに雄大な月山が聳え、手が届くのではないかと思うほど大きく見えます。

 

広い雪野原を登りきると野球やサッカーでもできそうな石見堂山頂に立ちました。

 

この付近一帯は天気が良ければ気持ちが良いのですがガスられると大変です。

 

石見堂山から左手に赤見堂山が聳えており、そこに向かって歩きます。

 

どこを歩こうかなんて考える必要はありません、逆にどこでも歩ける尾根に戸惑いを感じるほどです。

 

やがて一際高いところに着き、藪の中から三角点を見つけました。

 

そこは赤見堂山の山頂です。

 

石見堂山とは違って山頂はあまり広くはありません、山頂の南側は雪がまだ多くあり、山頂部分は雪が解け灌木で覆われていて、北側は斜面が崩れて赤土が露出しておりました。

 

 

 

赤見堂山を越えるとさらに尾根は広がりまるでグラウンドの中を歩いているようです。

 

あまりにも歩ける場所がたくさんあり、どこを歩こうか迷うほどです。

 

今までの私の山行は辛うじて歩けそうな場所を探しては恐る恐る進んでいたというのに、今回はそれとは対象的となっております。

 

 

 

途中で昼食を簡単に済ませ、少々の上り下りを交え枯松山に到着、ここも見晴らしが良くて非常に気持ちの良い山頂です。

 

枯松山に着いてもまだお昼を少し過ぎたばかり、このペースだと夕方頃には紫ナデあたりまで行きそうです。

 

しかし今まで広かった尾根も徐々に狭まり、藪が現れはじめます。

 

目の前には1400m峰と大桧原山が迫ってきましたが、どうも遠くから見る限りでは雪が無いように見えます。

 

藪漕ぎを交えながらもなんとか1400m峰までは登ることができました。

 

1400m峰から先を見ると、ここから一度狭くなった尾根は大桧原山で広がるのですが、その広い山頂付近は黒々としていて目算ではあの厳しい灌木と笹薮を抜けるには半日くらいはかかりそうです。

 

 

 

どうにもこうにも突破にかなりの時間と労力が必要としそうなあの藪を目の前にして私はいろいろと思案しました。

 

そして不本意ではありましたが無理せず今回はこの1400m峰で幕営し、明日は少し戻って別尾根から桧原集落へと下山することにしました。

 

 

 

それにしても残念です、いつか逆ルートから大桧原山に登ってみたいと思いました。

 

いつもは夕暮れ間近まで歩き続けるのに、こんなに早く行動を停止することはほとんどないことです。

 

少々暇を持て余してしまいましたが、月山や朝日連峰の峰々にオレンジ色に映える斜光と静かに沈みゆく夕陽を待って寝床に着きました。

 

 

 

4月26日

 

満たされない思いを抱きながらとぼとぼと歩いていると前から人が歩いてきます。

 

どこか見覚えのある顔だなと思って近づくと、それは福島の加賀谷氏でした。

 

彼とはお互い面識がありましたが、今までほとんど話をしたことはありません。

 

こんな言い方は失礼かもしれませんが山に対する志向が非常に似かよっているようにお互い感じていたのかもしれません、まるで古くからの友達のように一緒に行動を共にすることは必然であるように感じました。

 

私は経緯を説明し、あの藪の突破は難しい旨を伝えると彼もすぐに納得し、一緒に同じ尾根を下山することに言葉の必要はありませんでした。

 

そしてルート変更により、予定より大幅な早い下山で帰路に着くことができました

 

 

 

石見堂山や赤見堂山は朝日連峰や月山を眺めるには最高に素晴らしいところです。

 

しかもルート上に危険ヶ所はまったくなく、それどころか大雪原が続く気持ちの良い尾根となっております。

 

なぜここに登山道が整備されないのか不思議に思います。

 

 

 

赤見堂山について世界山岳辞典では「登山道や登山記録がなく残雪期に狩猟の場になる程度の山」と書かれておりました。

 

神様や仏様を祀る建物を通常は御堂と書かれますが、この二つの山は見堂の字が当てられております。

 

確かに山岳信仰の形跡はなく狩猟のみ対象の山ということなので、御堂という字は当てはまらなさそうです。

 

それでは見堂とは物を見るための建物と言う意味でありまして、石見堂山は石を見るための建屋に見立てられ、赤見堂山は赤い物を見るための建屋に例えられたのであろうと思われます。

 

確かに地形図では石見堂山南斜面側が崖マークとなっておりますし、赤見堂山の北斜面は前述したように赤土が露出しておりました。

 

 

 

両方の山は意外と下界からは目立たたず、おそらくそれらの山々に踏み込んだ猟師の人たちによって名付けられた山名なのではないかと推測してみました。

 

残雪期になると特に山スキーヤーが多く訪れるようですが、今回は静かな山を好む者同士が出会ったのみで、そんな私の希望通り静寂に包まれた石見堂山と赤見堂山、そして枯松山と1400峰を満喫して今回の山行を終えました。

 

 

 

それにしてもギターなど持参しなくて本当に良かったです。

 

ギターは人の多い賑やかな山に行くときに持参しようと思います。

 

まずは練習しなくっちゃ。

 

 

 

先日、テレビを見ていたらラーメン屋さんで運動会の音楽を流したらお客さんはどんな反応をするのか実験する番組をやっておりました。

 

音楽は人の心理に大きく影響するようで、案の定、お客さんは運動会の音楽に急かされるように慌ててラーメンを食べ、その日は店の回転率が上がったということでした。

 

そんなことで私もギターの練習曲は運動会の曲に決まりました。

 

 

 

山では行列をなして歩いているツアー登山の後方で運動会の曲でも演奏してみたら早く歩くようになるかもしれません、すれ違い様であればさっさと通り過ぎて邪魔でなくなるかもしれません。

 

山頂で早く一人になりたかったら「ほたるのひかり」を演奏すれば効果があるかもしれません。

 

逆にトレランが嫌ならスローな曲、例えば「荒城の月」とかを山で弾きまくれば良いのでは、「君が代」やあるいは矢代亜紀の曲なんかも良いかもしれません。

 

夜の山小屋はではどうでしょう、山崎ハコの「呪い」などが良く眠れそうです。

 

門内小屋の管理人をしたときにでも試してみようかな。