黒姫山
7月21日
ここ最近、自信のホームページは飯豊での作業登山日記ばかりになってしまっているので違う山行の日記も書こうと思い、先月に登ってきた山ではありますが、当時は日記も書かないつもりでいたものの、飯豊の作業登山日記に偏ることを避けるために今回は追加というかたちで掲載することになりました。
それではいきなりですが伝説話をひとつ…。
巻機山に狩猟のため入った地元猟師が道に迷い、帰り道を探していると、機織り姫と名乗る片目の女性が現れて、おんぶして連れて行ってくれたら道を教えてくれるという。
その代りおんぶしている間は絶対に振り向いてはいけないという約束をさせられる。
しかし猟師は我慢しきれず振り向いてしまいこの猟師も片目になってしまった。
これは民族作家の柳田国男さんが書いた「日本の伝説」の中の巻機山に伝わる機織り姫伝説を要約したものです。
黒姫山の話のはずなのにいきなり巻機山の話になってしまい困惑される方が大半だと思われますが、いずれ分かりますので読んでみてください。
巻機山に限らず山に伝わる伝説には片目の化け物伝説や一つ目小僧の話などが多くあるようです。
日本という国は鉱物資源に乏しい国で、当時は山から採取される鉱物類が非常に貴重な物だったということです。
その鉱物を採取して生成する人をタタラ師と言うのだそうですが、生成するときの火加減が難しいということで高熱の炉の中をずっと見ていなければならず、やがてタタラ師は必ずといっていいほど目が潰れてしまい片目になってしまうということで、タタラ師の片目はいわゆる鉱物資源生成の職業病のようなものだということだそうです。
そんなことから鉱物資源が採取される山々には片目の妖怪といった昔話や伝説が伝わるのだそうです。
さらに巻機山が聳える新潟県中越地方には小千谷ちぢみをはじめとした織物の名産地があり、巻機山に住む機織り姫様の正体は実は奴奈川姫と言う神様であり、この奴奈川姫が麓の人々に機織りを教えたとされているということです。
また、奴奈川姫は別名を黒姫と言い、三貴神の一人でもあるスサノオノミコトが出雲でオオクニヌシノミコトを生み、そのオオクニヌシノミコトに見初められた神様であるとされております。
今回の山行は巻機山でなく黒姫山ですが、機織り姫と黒姫は同一人物ということで機織り伝説を書いてみました。
ほかに黒姫山は刈羽と青海にありますが、これ以外にも守門岳と浅草岳の間に黒姫という小さなピークがありますし、佐渡にも黒姫越というところがあり、これらはすべて新潟県内に存在する地名です。
今回登ってきたのは唯一新潟県外の黒姫山で、頚城連山近くの長野県内に聳えている黒姫山へと足をのばしてまいりました。
登山口はいくつかあるようですが、今回は黒姫高原スキー場から登ってみました。
半分近くはスキー場構内を登り続けるので野尻湖や長野県北部の山々を終始望みながら、素晴らしい展望の中を登ります。
しかしスキー場が終わると、鬱蒼とした樹林帯の道へと変わり、ここからは距離が結構あり、登りもなかなか厳しいところでありました。
黒姫山は標高2054mと黒姫山グループの中では圧倒的な標高を誇ります、しかし山頂近くまで木々が生い茂っている山なのでスキー場を過ぎたところからは展望と言う点ではそれほどでもありませんでした。
山頂まで来ると再び展望が開け、あまり広くない山頂の祠には弁財天が祀られていて、古くから信仰対象の山だったということです。
私が今回この山を選んだ理由は、登山道は必要以上に手入れされておらず、長野県の山という割に比較的原始性が残っていて人も少ないので静かな山歩きができ、なんとなく好感のもてる山だと思ったからです。
特に七ツ池周辺の天国のような景観は素晴らしいもので、あそこでゆっくりとした時間を過ごしてみたいと訪れた人は誰しもが思うのではないでしょうか。
山麓には俳人小林一茶の生まれ故郷があるそうで、「おらが春」の中に「おのれ住める郷は。奥信濃黒姫山のだらだら下りの小隅なれば。雪は夏消えて霜は秋降るものから」という言葉が記されているそうです。
奇しくも今年は小林一茶の生誕250周年記念の年なのだそうです、私には俳句や詩心などはまったく皆無でありますが、あの七ツ池の桃源郷のような景観にしばらく入り浸れば、こんな私でさえ素晴らしい句が浮かんできました。
「家の中 ゴキブリが出た うちの人 ハエ叩き持ち 追い掛け回す」
黒姫山にはいささか無関係な句でございました、御粗末様です。
最後に、この長野県の黒姫山にも有名な伝説が残されておりました。
信州中野城主高梨摂津守の娘、黒姫が大沼池に住む大蛇に見初められ、大蛇は人に化けて黒姫を嫁にしたいと所望してきたそうですが、大蛇だということがばれてしまい拒絶されてしまったそうです。
すると大蛇は怒り、洪水をおこして多くの人々や田畑が流されてしまったそうです。
黒姫は亡くなった人の霊を慰めるためと大蛇を鎮めるために山頂近くの池に身を投じたそうです。
この伝説は片目伝説でも機織り伝説でもなく、黒姫山グループとしては違和感のある伝説に感じます。
もしかしたら新潟県の黒姫山とは異質な山なのではないかとも思ったりしているところです。
機織り姫とは別人の、しかも神様ではなく城主の娘である黒姫の伝説からこの山名が付けられたのかもしれません。
あるいは山容が丸くて優しく、山頂まで黒々した木々に覆われているその姿から黒姫と名付けられて伝説が生まれたのかもしれないと思い、もしかしたら機織り伝説の話はここで書くべきではなかったかもしれないと私自身一人で疑義を抱いているところでございます。