門内小屋管理人2012

平成2498日~9

 

去年の飯豊は東北大震災や水害等の影響で登山者が大激減しました。

天気の良い休日にもかかわらず登山道周辺に人は疎らで各山小屋は閑古鳥が鳴いているような状況でした。

東北の山々、特に福島県付近の山は放射能で汚染されているのではないかという、いわゆるあの風評被害というやつでしょうか、さらに新潟と福島の県境一帯で大規模な水害が発生し、追い打ちをかけるように登山客の足が遠ざけられていたようです。

 

しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れる、今年に入って飯豊を敬遠していた登山者の皆様方が戻ってこられたようで、7月と8月、特に7月は悪天続きにもかかわらずいつも人で溢れていて、すっかり賑わいを取り戻したように思われます。

 

私個人的には去年くらいの感じの方が私が登山を始めたばかりの頃のような静寂さがあり、素朴な山らしい自然の雰囲気があってとても好きでした。

 

ただし管理人として山へ行くのでしたら人が大勢いて賑わっていた方が楽しくていいなと思っていました。

しかしこの時期は空白期間とでも言いましょうか、花の時期が終わり、紅葉にはまだ早く人の往来が一時的に減少する時期でもあります。

しかも98日~9日は天気予報が悪い、どう考えても登山者は少ないことは簡単に予測することができました。

 

 

天気が崩れる予報であれば最短距離で行こうと思い、素直に梶川尾根を登り門内小屋に入ることにしました。

それならば保全事業の荷上げもしようということで、大きめのザックで飯豊山荘へと向かいました。

しかしいくら門内管理棟にある程度の備品が備えられているとは言え一泊分の荷物がザックに入っており保全事業の荷上げ品は残念ながら二つしかザックに入りませんでした。

 

しかも一泊分の荷物の中には季節のフルーツも含まれていて、今回は葡萄にしましたが上から荷上げ品をぎゅうぎゅうに詰め込み葡萄の安否が心配されます。

そんな大きな不安感を抱きながら梶川尾根に取り付きました。

 

久しぶりに登る梶川尾根、時刻は7時近くになっていて暑いのなんのって、本当に天気は崩れるのだろうか?

 

背負子にすればよかったなとか葡萄ではなく梨の方が潰れなくて安泰だったかもとかあれこれ考え、暑さに四苦八苦しながらもようやく梶川峰に到着し、前方を見ると山形県民登山の御一行が見える、もう少しで追いつけそうな距離、賑やかで楽しそう。

 

保全事業の荷上げ品を降ろすところでちょっと休憩しようと思い笹原に横たわると、夏の終わりの日差しが降り注ぎ、そよそよと風が吹いて周囲の笹の葉がざわざわと音をたてて揺れている。

柔らかい日差しと爽やかな風が清々しい「ほんのちょっとだけ…、このまま眠りましょう」。

夢心地もつかの間、目が覚めると思った通り山形県民登山の方々の姿は跡形もなくなり遠くを見渡してももうすでにどこにもいない。

急いであとを追いかけるも秋の気配が感じられる飯豊の稜線はやはり綺麗です。

景色に見とれたり写真を撮ったりしながら歩き、門内岳山頂でようやく皆さんに追いつき、門内小屋前で一緒にビールを飲みました。

ちなみに涼しい倉庫を見るとちょうどおあつらえむきに下越山岳会のビールが私の方を向いて置いてあったので、数本頂戴して皆さんと飲みました。

私のビールは陽当たりの良いところにあったような気がちょっとだけしたので、それはそっと大事に飲まずにおきました。

 

山形県民登山の皆さんを送り出すと、人は誰もいなくなり静かになります。

時間を持て余した私は、先ほど門内清水を見に行ったら涸れていたので、もう少し下の方まで探しに行ってみましたが、やはり汲めるような水は出ていませんでした。

小屋へ戻って煎餅のようになった葡萄とお好み焼きを食べてから管理棟でまた一眠り、宿泊客の声で目が覚め小屋へ行くと女性3人男性3人が小屋でくつろいでおられました。

私が顔を出すと「今日、ここに泊めてください」と言われ宿泊者ゼロでないことにホッと胸をなでおろしました。

 

やはり皆さん水場をあてにしてきていたようで、水が足りるか不安のようでした。

女性客の一人が短パン姿の私の足を見て「まあ!すごい綺麗な脚だこと、惚れ惚れするわ」と言いました。

女性から起死回生の言葉を頂いた私は「水足りますか?よかったらこれ使ってください」と私が持ち上げた水を差し上げました。1500mlを持ってきていたので3人の女性に500mlずつ分けられちょうど良かったです。

男性3人には「明日、下山ルートの梶川尾根の五郎清水まで行けば水が汲めますから大丈夫ですよ」と適当に言っておきました。

 

その後、もう一人阿賀町から来られたという若い男性客が来て、今日の宿泊客は総勢7人ということになりました。

珍しく大変に人の少ない静かな夜で、私としては若い女性客がたくさん来てくれて皆で宴会をすることが夢でした、しかしそんな儚くも切ない小さな夢が叶えられず、悲しみに打ちひしがれながら管理棟での一夜を過ごしました。

 

翌日、天気予報が外れて朝から暑い、朝日に輝いて北股岳や遠くの飯豊本山が綺麗に見える。

宿泊者の皆さんと御来光を見て記念撮影をし、皆さんは発って行きました。

私は皆さんを見送ってから、健康のため早朝の散歩へと出かけました。

 

美味しい空気と爽やかな朝の陽射しを浴びながらギルダ原をふらふらと進み何気なく北股岳まで来てしまいました。

またふらふらと小屋まで戻り、部屋掃除や便所掃除をしました。天水タンクの水もなくなっていてやっとぎりぎり便器を洗うことができましたが、便所掃除後の手を洗うことができませんでした。

便所掃除後に洗ってない手でしかもカレーの朝食を済ませ、一通りの片づけをして、再び北俣岳へ向かいました。

 

空身なら1時間もあれば往復できます、山の景色は2時間も違うと随分と変わるもので今回は2種類もの門内~北股間を見ることが出来ました。

 

そして午前10時ちょっと前に門内小屋を出発、天気が良いので少しでも長く稜線が歩けるので下山は丸森尾根を使いました。

丸森尾根も久しぶりに歩きますが、相変わらずの急斜面の連続です、しかし距離が短いので時間は短縮され、梶川尾根より私は好きです。

 

そして12時ちょうどに飯豊山荘に下山、無事に業務を終了しました。

今回は自分一人しかいなかった川入荘の露天風呂にゆっくり浸かり、山菜料理を頂いてから我が家へと帰りました。