兎ダナイ~枯松山

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ここ数日の間で冬山は終わりを告げ、春の陽気が急速に訪れはじめ、刻一刻と移り変わる季節に慌ただしく残雪期モードへと登山スタイルも変えていかなければなりません。

この時期は冬に登りたい山から春先に登りたい山へと季節に合わせて予定を変えていく楽しみと、冬に登りたかったのに登れなくて残念な思いが交錯する時期であります。

 

あまりに急速な季節の変化に、冬と残雪期の境目頃にでも、と考えていた枯松峰を急いで計画することになりました。

実は316日~17日に飯豊雪洞泊まりを計画しておりましたが、16日が大荒れの天候のため中止にし、17日に日帰りで枯松山へ行くことに計画変更しました。

 

枯松山は綺麗な円錐形をした山容で飯豊の頼母木山やエブリ差岳あたりから大変に立派に見え、飯豊に訪れた時にあの端正な雄姿を目にされた方は「いつか登ってみたい」と思う方も多く居られるようです。

すぐ近くにある大境山には登山道が有り最近人気があるようですが、大境山より一際目立つ枯松山には奇跡的に登山道が付けらないまま今日に至っていて、より多くの自然を温存したまま孤高に聳えている姿に大きな魅力を感じずにはいられません。

ただそんな山ですから雪のある時期には長者原側から、晩秋の頃には大石側から山頂を目指す人は後を絶たず、ルートもある程度固定されてきているようです。

今回は長者原から兎ダナイ経由で行ってきましたが、実は他のルートも検討してはおりました。

玉川小学校下の玉川に架かる橋手前付近から取付くルートは最短ですが地図で見る限り悪場が多く手強そうですし、大境山方向からのルートは車の問題があります、なかなか他ルートで決め手になるところは見つからず、ちょっと楽しさやわくわく感は減ってしまいますが、比較的よく歩かれているこのルートで行くことにしました。

ただし、いろいろ一丁前なことを書きましたが、そう言う私自身もこの枯松山には登ったことがなく、兎ダナイまで中条の亀山さんの案内で藪山ネットの皆さんと登ったことがあるだけでした。

始めて登るところですし、まずは無難に正攻法で行くことにしました。

梅花皮荘隣の冬期閉鎖している川入荘駐車場に車を止めて尾根に取り付きますが、朝は冷え込んで雪が固く、最初からアイゼンを装着しました。

下から見る尾根の出だしはここ数日の陽気ですっかり雪が落ち、痩せた尾根上はおびただしい灌木や枯れた倒木が覆いつくし、とても歩く気にはなれません。

かちかちに凍った雪はこの時間なら雪崩の心配はありません、そこである程度雪が安定している上部まで雪渓を登ることにしました。

左の沢は大きな沢で雪渓の最上部がどうなっているか分かりません、右側の沢は小さくて雪渓上部の方はなだらかな雪原のようになっているのがわかります。

ここは右側の沢をつめることにしました。

数日前に発生したと思われるデブリをいくつか越え、難なく雪渓上部へとでることができました。

あとは広くて気持ちのいい尾根を進んでいくだけですが、飯豊主稜線の峰々は近くに大きく見え、簡単に手が届くのではないかと思ってしまうほどです。

尾根は一直線にエブリ差岳に向かって伸びており「まるで、もしかしたらこのままエブリ差岳に行ってしまうのではないか。」そう勘違いさせられるほどです。

このルートは大きな飯豊連峰を常に感じながら歩いていけるところです。

広くなだらかな尾根も兎ダナイ手前から急な登りとなり、雪が締まっている分いちだんと急に感じ、以前来た厳冬期の頃とは様相が違う感じがしました。

ところどころ雪が割れてクレバスとなっておりますが落ちないよう慎重に進み、

そして急な斜面を登りきると県境尾根、兎ダナイのわずか横の小さなピークに出ます、ここから兎ダナイまで30m、山頂まで行ってみるとすぐ真正面にはあの思い出深い西俣峰から頼母木山へと続く尾根がすぐそこに見えます。

正月に自分が辿ったところを今ここから再び目で辿っていると、楽しいことや苦しいことすべてが走馬灯のように蘇ってきます。

感慨に浸るのも束の間、これから先は私にとって未体験ゾーンです、どうなっているかわかりません、とにかく先を急ぎます。

 

兎ダナイからは左右非対称の尾根となり飯豊界隈特有の新潟県側はなだらかで山形県側はスパッと切れ落ちている尾根となります。

山形県側に張り出している雪庇に注意しながら新潟県側の少し藪の出たあたりを進んで枯松山一つ手前のピークに登ります。

このピーク手前あたりからまた尾根が広くなりますが、行く手に見えるのは垂直に落ち込む岩場の細い尾根にずたずたに崩落した雪庇、そしてその先に枯松山の鋭鋒、これから最大の難所が待ち構えております。

ただ幸いなことに細い尾根の部分の雪は落ちて地面を歩くことができ、垂直に近い登り下りのヶ所には踏み跡らしきものがありました。

山頂手前で岩と藪に少々行く手を阻まれましたが、それほど苦労することなく雪に覆われた山頂を踏むことができました。

登り始めから兎ダナイまで2時間ちょっと、兎ダナイから山頂まで2時間弱の行程でした。

山頂は雪があってどんな様子なのかはまったく分かりませんでしたが、狭い山頂のような感じがします。

見晴らしの素晴らしい山頂は周辺に木々がまったく無く、おそらく岩峰なのではないでしょうか。

山名は木々も生えることができない、痩せた土地に強い松でさえ生えることができないなどといったところから枯松という名前があてられたものではないかと推測します。

枯松山という山名は日本全国に3座しかなく、しかも3座すべて山形県内にだけ存在しているようです。

この枯松山といい兎ダナイといいおそらく山形県の方言か、あるいは言葉等からきているものなのではないでしょうか。

 

枯松山のこのルートは最初から最後までずっと飯豊連峰主稜線に抱かれながらの歩程でした。

私にとってたくさん山の楽しみを与えてもらい、おそらくこれからもずっと多くの苦楽を与えてもらいながら登り続けるであろう大いなる飯豊連峰、その主稜線から少し外れたところに大きく立派にそして孤高に聳えている、枯松山はそんな山でした。