ちょっと一休み

道具の話4

 

先日、正月明けから仙台に出張していた社長から電話があり「とても忙しい!大変だからすぐに手伝いに来てほしい!」と半べそ状態で連絡があり、会社の他の人たちにも同様の連絡があったようで、事務員を除いた全員に仙台召集令がかかっているようでした。

皆さんあまり行きたくないようでなんだかんだ理由をつけて拒否することも考えているようでしたが、とりあえず召集令がかかった人たち全員で話し合い、電話の内容があまりにも悲壮的で可愛そうだったので仕方がないから皆で手伝いに行くことにしました。

出張は2月後半頃まで続きそうで休日もままならないほど忙しいと聞いていますが、それだとこの冬は山に行きにくくなってしまうのでとても困ります、時期を見て冬の間に正月の飯豊のリベンジに向かうことも考えていたところでしたし…。

ある程度になったら適当に理由をつけて帰ってこようと考えながら渋々仙台へ向かうことになりました。

ところがいざ現地に行ってみても特にこれといってすることがなく暇を持て余してしまっておりました。どうやら社長が一人だと不安なようで皆を呼んだみたいです、「まったく困ったものだ、子供と変わりません。」

私は「新潟に仕事があるから」と言ってさっさと帰りましたが数日後またすぐに連絡があり再び社長の子守のため仙台へ向かうことに…。

結局、私は仙台という慣れない地で暇を持て余すことになり、それならちょうど冬期悪天で山へ行けない時にでもと思っていた道具の話続編を書くということになった次第です。

 

道具の話は山行文でないにもかかわらずアクセス数は結構上位の方でして意外と好評のようです。そんなこともあり今回で4回目を掲載してみようという運びになりました。

ただ肝心の道具についてですが、この期に及んで何を書こうかまだ決まっておりません、どうしよう?

 

今までは私が使っていて気が付いた物や不便さを感じた物に改善策を講じた物など、その時に使ってみて思ったことを書いていたように思います。

通常の登山では普通に使える登山道具も正月の飯豊、それも単独山行ともなれば通常登山とは言い難くなり、厳しい登山と言うよりも異常登山とでも言った方が合いそうです。

そんな異常登山をしているときには今まで気が付かなかった登山道具の欠点が見え隠れしてきます。

今回の正月山行で不便を感じ改善をしようと思っている道具を挙げてみると、度重なる除雪のお蔭で水が浸みてきて大変だったテントシューズ、下山してから改善方法を模索しているところです。

それから私はスノーシューだったので影響はありませんでしたが、皆さんのワカンには湿った雪のお蔭で底に雪が団子状になってくっ付き、その歩く姿はまるで京都の舞妓はんのようだったとの旨は前回の正月の飯豊の文章の中で書きました、その姿は一見華麗で美しくまるで舞妓はんが舞を踊っているようにも見えますが、実は歩きにくいはずだったのではないかと思います。その改善策を考えてみようと思っているところですがあの時のような湿った状況下での実験がいつもできるわけでなく改善には時間がかかりそうです。

それ以外にもテント内が湿ったお蔭でコンロの点火装置不調等も今回の正月山行では挙げられます、ガスライターを持ち歩いても湿っている状況ではガスライターではすぐにダメになってしまうし、オイルライターは低温化では着火しにくく使えません。そんなことから私はいつも防水マッチを持ち歩いており、確かに防水マッチ自体は湿気に強いのですが、やすり部分が湿気に負けてしまいます、それに一泊程度の山行ならいいのですが三泊あるいは四泊となるとかなり大量にマッチが必要となってきます。そんなこともあって防水マッチあるいはライターについてもいろいろ考えているところです。

 

ただしコンロは毎回防水袋に入れて片付けることにより湿気の影響はそれほどなくなんとか使えましたし、ワカンに着く雪はいつものことではないのでそれほど深刻ではありません、この中で一番深刻だったのはテントシューズでした。

単独行がほとんどの私は悪天候下ではすべて一人で除雪をこなさなければならず、今回の飯豊でも初日から水が浸みてきていたような有様でした。

下山後、今回一番ネックだったテントシューズに重点を置いて改善策をいろいろ考えていて、そのことについて書いてみることにしました。

 

ここで言うテントシューズについては登山用品としてテントの中で使用し、ダウンや化繊等が封入されており、履いたまま用を足すため等で外に出ることができ、さらに履いたまま寝袋に入って就寝するものであるという用具を対象にしております。

ダウンは膨らみがある状態で使用しなければ保温機能はなくなるということなので頻繁に歩くような場合はダウンが潰れ膨らみが無くなって保温ができなくなります。

テント内ではまず歩くことはありません、したがって靴底がスリッパ状になっている物や住宅内での使用を目的としたものについては対象外としフリース素材の物等も対象外としました。

 

テントシューズといってもそれほど多くの種類があるわけではありませんし、ピッケルやアイゼンのように歴史ある登山道具というわけでもありません。

おそらくメーカーとしても多くの時間や資金を投入してまで研究開発はしていないと思われます。

そんなことから登山道具は進化している割にテントシューズは完成度の低い登山道具なのではないかと推測されます。

まあ山は道具で登るものではないでしょうし、それに完成度の低い、あるいは自分自身使い勝手が悪いと思った物は自分で創意工夫や加工をして使うといった面白さも出てきますから、それはそれで別の楽しみがあって私は良いと思うんですがねえ…。

 

そんな数や種類の少ないテントシューズではありますが、現在一般的に手に入ると思われる物をメーカー別に列挙してみました。

 

   メーカー ヴァランドレ

重量230g、850FP以上のダウン封入(封入量は記載なし)、定価?¥18800

ダウンシュラフメーカーの最高峰。-20度~-30度対応となっており、脛までダウンが封入されています。ヒマラヤ等の厳寒地で使用を想定して作られていてこの辺の山で使うのはもったいない。

 

   メーカー テラノバ

900FPダウン封入、定価¥16590円  記載はこれだけ

最高級のダウンを使用しているので高いのでしょうか?実用性、使い勝手はどうでしょう?ちょっと疑問です。ダウンは足首までの封入。

 

   メーカー ナンガ

重量210gダウン量80g(ダウン品質については未記載、寝袋と同じ760FP?)、オーロラテックスという防湿透水素材を使用(完全防水ではない)防臭防菌処理、定価¥6825

国産ダウンシュラフメーカーでICIパイネシュラフの製造元ということですが、パイネ以外の物も作っていそうですね。防水性も比較的良いということです。ダウンは足首まで封入で脛までカバー付。

一般的で値段も手ごろ、使いやすそうです。

 

ショートタイプ

重量160g、ダウン量80g、その他ロングタイプと同一素材使用。

ショートタイプのものは除雪作業のみばかりでなく用を足しに外に出ることも困難、(山にもよりますが)あまりお勧めできるものではありません。

 

   メーカー イスカ 

S180gダウン量60g、L200gダウン量70g、ダウン700FP、素材はゴアウインドストッパーを使用(完全防水ではない)、定価¥7875

私がいつも使っているテントシューズで今回の飯豊でも使用した。素材も作りも良く値段も手ごろ、防水性も比較的良い方だという評判。それでも今回の山行では全く歯が立ちませんでした。ダウンは足首までで脛までのカバー付。

 

ショートタイプ

重量190gダウン量70g、透湿防水素材ウェザーテックを使用(完全防水ではない)

ショートタイプは脛までのカバーが付いてなく使いにくい。

 

   メーカー マジックマウンテン

重量L250gダウン量108g、M210gダウン量84g、S170gダウン量66g、ダウン650FP、定価¥6300

私は上記のイスカとこれを併用しております、イスカに比べると生地が薄い分やや防水性が落ちるといわれているようですが大差ありません。値段が手ごろな割にダウン量がたっぷりです。ダウンは足首まで封入で脛までカバー付。

 

   メーカー プロモンテ

重量150gダウン量70g、定価¥5670円、記載はこれだけ。

実物を見たことがないので使い勝手はどんなものか分かりませんが、写真で見る限り普通に使えそう、安価ですしね。脛までカバー付のロングタイプとして150gは最軽量です、でもその分生地は薄っぺらなのかな?

 

   メーカー マウンテンイクイップメント

重量225gダウン量片足40g、700FP、定価¥9975円、脛までダウン封入。

最近よく店頭に並んでいるのを見かける商品です。脛までダウンが入っているタイプの物は暖かい反面、縫い目が多くなるので水が浸みやすくさらに脛まで濡れるので逆に使いにくいのでは?

 

同メーカーからワンランク上位の物が出ております。

重量440gダウン量100g、600FP、定価11550円、脛までダウン封入。

こちらは素材を透湿防水素材のドライライトを使用、防水性がいくらか向上しているものと思われます。

 

   メーカー モンベル

重量211g(ダウン量記載なし、モンベルは寝袋についても記載していない)、800FP、定価¥8700円、素材はゴアウインドストッパー使用。

作りがしっかりしているので今度使ってみたい製品です。

 

ショートタイプ

こちらは化繊が封入されているもので、脛までのカバーは付いてないものです。重量は200g、定価¥2600

テントより山小屋で使用する分には良さそうです。

 

 

店頭やネットで良く見かける商品をざっと列挙してみました。

これら以外にもミレー、キャラバン、バイレスから化繊の物、ヘリテイジからウインドストッパー使用の高級な物など多くの商品があるようです。 

どれが良いかは好みによって分かれるところであろうかと思われますが、ヴァランドレのような超高級な物は別として、そもそもダウンのテントシューズなんて言っても装着したからと言って劇的に暖かくなるわけではありません、冷たいまま足を入れればずっと冷たいままです。

保温性を重視しようにも足先の血のめぐりが悪ければいつまでも冷たいままです。ジャケットと違ってどれを選んでも体温で暖かくすることは難しい気がします、それなら異常登山に少しでも対応できるような防水性、作業性を重視して選ぼうと思いますが、これもどこのメーカーの物でも大差なさそうです。

水分は素材から浸入してくるのではなくほとんどが縫い目から侵入してくるようです、だから縫製部分をよく確認して、少しでも縫い目が少なくさらにしっかり密に縫い合わされている物を選定して使ってみようと思っているところです。

マウンテンイクイップメントのところでも書きましたが、おそらく脛までダウン封入の物は縫い目が多くなりおそらく使い勝手は逆に悪くなるのではと推測します。

ただし脛までカバー付の物でなければ使いにくいということは言うまでもありません。

 

去年までモンベルからテントシューズカバーが販売されておりました、しかし今年は廃版になっており、おそらく需要がなかったのかもしれませんね。

テントシューズが浸みるほど外で作業をする人は異常なのでしょう。

でも異常登山でなくても山によっては3月あるいは4月くらいになると晴天の日はほんの少し外に出ただけでもテントシューズに水が浸みてくることが結構あるものです。

現行の各社製品ではしっかりとした防水性は望まれないようなので、テントシューズカバーを自作するしかないと考えているところでもあります。

いやいやもしかしたらスーパーのレジ袋でも代用できるかもしれません、あるいはゴミ袋でもいいかもしれません。

それから風呂掃除のときに使うスリッパを除雪の時にテントシューズの上から着用するといいのではないか、滑り止めも付いていることだし…。

いずれにしても改善できた際にはこのHPで公表しますね。

 

足元のアイテムが出たついでに今回の正月山行で手袋について気が付いたことがありましたので、ほんの少しですがそのことについても書いてみます。

 

元来、私はウェアなどに頼って山に登ることは好きではなく、そもそも着用するものに頼って登るべきではないと考えております。

しかし手袋だけは別で、身体で一番凍傷になりやすい手の指先は信頼有るものを使って保護したいところです、手袋は私が唯一頼っているウェアです。

5年ほど前、正月山行の頼母木山で記念撮影をしようとしたところカメラが凍ってシャッターが切れませんでした、手袋を脱いでカメラを両手で包んで温めたところ無事にシャッターが切れ記念撮影に成功しましたがその時はあまりの冷たさに手の感覚がおかしくなるほどでした。

下山後、帰りの車に揺られようやくホッと一息ついた時、手の指先に激痛が走りました。見ると親指の爪が剥げているではありませんか、おそらく頼母木山頂の記念撮影時に凍傷になったのではないかと思われます。

凍傷は皮膚組織が壊死するので一度かかると治らないと言う話を聞きます、何年もの間に度重なる冬山登山で手の指先は軽い凍傷にでもかかっていたのか、前々からちょっとした冬の里山に登っただけで指先は軽い腫れと痛みの症状が出ているような状態でありました。

そんなこともあり冬山に行くときはいつも指先の冷えを気にしておりました。

今回の正月飯豊は初日から雨でしたから防水性の高い便所掃除のゴム手袋を着用して登りました。

裏地付きで少々保温性がありこれだけで十分暖かく感じられます、ちなみに値段は348円、去年はワークマンで298円だったのに今年は348円になっていてとても残念です。

真夜中のテント周りの除雪もすべてゴム手袋一枚でしたが特に冷たさを感じることはありませんでした、夜中のテント内部は—3度でしたから、当然外部はそれ以下だったでしょう、かなり低温化でもゴム手袋は使えるようです。

結局、このままゴム手袋一着だけで特に問題なく正月登山を終えることができ、厳しい山行でも十分に役立つことが判明いたしました。

 

近年、ブームになってからというもの登山用具は進化と同時に非常に高級化してきているように思えますが、値段が高い物は必ずしも優れているとは思えません、優れた商品や使い勝手の良い商品と値段は決して比例するものではないと思います。

 

石井運動具店に行って、他のお客さんがいるところで「手袋なんかそんな高い物買っても意味がないよ、ゴム手袋で十分さ!」あるいは「そんな高いズボン買ってどうすんの?1980円の作業ズボンが一番だよ!」なんて大声で喋るものですから店員さんは大迷惑のようでした。

 

でも本当にゴム手袋は少々蒸れますが大変に優れものです、皆さんも使ってみてはいかがですか?便所掃除に使ってそのまま登山にも使え、一石二鳥です。

冷え性の方などは便所掃除に使ったあとそのまま着用して食事をしても構いません。

 

ところでそういえば石井運動具店は近々創設50周年を迎えるということでしたが、私が所属する山岳会は80周年を迎えるそうです。

今なら登山用品という登山に適していると思われる品々が石井運動具店等に行けばいとも簡単購入することができる時代です。

しかしまだ登山用品店などない時代、登山道具が確立されていなかった頃は皆さん一般的な生活用品を自分で創意工夫して使っていたことが古い文献等を読んでその一端を伺い知ることができます。

そんな昔の文献を読んでいると不便なのは道具ばかりでなく、登山道はもちろん登山口まで行くことさえ困難な時代に先人の方たちは苦労を乗り越え山頂を目指しておられたことが偲ばれます。

しかし今は登山道具が確立され巷に道具が溢れており、種類ばかりが豊富で見かけ倒しの物が多く、高価な物でも実用性に乏しい製品も数多く出回っていると思います。

高価な物を買い、使い勝手が悪くて店員さんにクレームを付ける人が後を絶たないといった話をよく耳にする昨今、道具によっては命に直結するものもありますから店員さんに選んでもらってばかりではよくありません。

私はせめて自己責任で買えるように心がけ、そして買ってきたものをただ使うのではなく良く調べ、研究してその道具を良く知った上で使いこなしていければなって思っています。そしてさらに必要に応じて改良を施してみることも道具を知るという意味では大切なことではないかと思います。

 

さてさて仙台は奇しくも今日も雪が降っております。

珍しく雪が積もり、慣れない雪に道路は大渋滞、転倒して怪我をする人が続出しているとのこと、社長も新潟県民なのに転んでおられました。さっそく事務員から滑り止め付きの新しい長靴が社長の元に送られてきたようですが、その長靴を履いて今度は資材につまずいて転んでおりました。

まあ社長のことは放っといて、こちらの方は雪が降るたびに怪我人続出ということなので何か御役に立てないものだろうか、いろいろ考えた末に次回はアイゼンについて書いてみようと思っているところです。