11月27日 飯豊西俣道
大石ダム~杁差岳目指して
はじめに
私がまだ子供の頃、欽ちゃんのテレビ番組を見ていたら、笑い話で「兄弟喧嘩を止めようと父親が馬鹿者と言うつもりが間違って化け物と言ったら、益々喧嘩が激しくなってしまった。」という内容のことを放送していたことがありました。
確かに常識から言っても化け物は人をけなす言葉になりますが、登山の世界で化け物と言われるのはある意味褒め言葉ということになろうかと思います。
以前に書いた朝日連峰友情登山の中で狐穴小屋に向かっている途中で西川山岳会所属の方で公園管理員の志田さんとすれ違いましたが、私の歩く早さに驚いたみたいで「化け物とすれ違った。」と後に狐穴小屋管理人のあだちゃんに言っていたそうです。
それから先日、山友達と一杯飲みながら久しぶりの再会を楽しむ機会があり、そのとき彼女はHPの朝日連峰友情登山の日記を読んでくれていて「褒め言葉だよ」と言いながら私のことを化け物と言ってくれました。
ついでにもうひとつ思い出しました、だいぶ前のことになりますが、当時グーグーガンモという漫画がテレビで放映されていましたが、グーグーガンモとは馬鹿でかいニワトリの化け物のようなキャラクターで、私の友達にそのグーグーガンモにそっくりなのがおりまして、その友達の買い物に付き合っているとき、買い物かごにこっそりグーグーガンモのふりかけを入れたら、そいつは気が付かないままレジを済ませてしまい、あとで「何だこれ!お前の仕業だろ!」と怒られてしまいました。ふりかけのケースのグーグーガンモと彼の顔があまりにもそっくりだったのでつい悪戯をしてしまいましました。
彼とは昔良く一緒に山に登りましたが、彼にも化け物とか怪物などとよく言われておりました。当時、私は「人を化け物扱いするな!」と言って反論しておりましたが、よく考えてみると、それは褒め言葉だったのかもしれません。現在、彼は静岡県民となってしまいましたが、今でもたまに山に登っているそうで、このホームページを読んで楽しんでくれているということでした。
ちなみに彼も化け物です、特に顔が・・・。ってまた関係のないことを書いてしまいました。
話しはすっかり元にもどりまして…、人に化け物と言われることは普通なら残念なことのはずで、化け物と言われて喜んでいるのは通常では大変に異様なことであります。それは人間離れした登山ができる人に対して化け物という言葉で敬意を表していることなのだろうと思います。
しかし正月の飯豊に関して、皆さんの反応は少し違っているようでした。
登山をする人、あるいは山好きの人なら正月の飯豊に挑戦する気持ちを理解してくれそうなものですが、残念ながらそのことを人に話しても化け物と言う人は少ないようで、大半の人には馬鹿者と言われます。
褒められようと思い、人に「正月に飯豊に行くんだよー。」って話すと、大抵の人は「ばっかじゃないの!」とか「なんでわざわざそんな時期に行くんだろ?つくづくあんたは馬鹿だねー。」と言った返事がかえってくることが多いように感じます。
登山が趣味の人でさえ理解できないほど正月の飯豊は特殊なようです。
そんな厳しい山へ行くにはある程度トレーニング山行も必要かと思いますが、この時期天候が安定せずなかなか簡単に山へ行くことができません。11月と12月は年間を通して一番登山には不向きな時期だと思います。
そんな中、週間予報を見ると11月27日の日曜は好天に恵まれるようです。
それなら山にでも行こうかと考えましたが、どこへ行くかいろいろ迷いました。
この時期は飯豊や朝日は簡単に行くことができないし、そもそも道路も通行不能になっているし、だからといって安易に近くの里山程度で妥協したくはないし、ラッセルの程度によりますが飯豊の西俣尾根なら日帰りで頼母木山まで行くことが可能かもしれません。でもそこは正月に行くルートなので今行ったって面白くないし、あるいは丸森尾根あたりも考えましたが、1時間の舗装道歩きを嫌いました。また、谷川岳あたりの上信越の山も考えましたが、前日の夜は飲み会があり、夜行で行くことは不可能でした。
本当にいろいろ迷って、とうとう何を考えてしまったのか、夏の日が長いときに日帰りがやっと可能なルートをこの時期に目指そうと、西俣は西俣でも大石ダムからの西俣道を辿り杁差岳を目指す西俣ルートに決定しました。
一応、予定としては登りは西俣道で、下山は東俣道を使うつもりです。しかしまあ誰が考えてみても登頂は無理なはずです、西俣道を行けるところまで行って引き返してくるということで、とにかく行ってみることにしました。
山行記録
大石ダムには夜明け前に着き、明るくなる前に出発しました。それにしても大石ダムの標高は200m程度にすぎず、標高1636mの杁差岳まで高低差が大きく、途中の大熊小屋でさえ標高は300m程度です。いかに厳しいルートかこれだけで良く分かります。
ダムを渡るとすぐにトンネルがあり、霊感などまったくない私ですが、少し気持ち悪さを感じてトンネルを通過しました。
ここから大熊小屋まで延々とへつり道、いわゆるトラバースが続きます。以前は鉱山道だったようですが、今では登山道といった用途の他に、奥に雨量観測所があり、そのための作業道あるいはマタギ道や山菜道、魚釣道といったことで使われているようです。
歩き始めはところどころ積もっている程度の雪でしたが、次第に雪の量は増え3回目の渡渉点であるタキブ沢を過ぎる頃には完全に道は雪で埋まり、足首よりやや上くらいまで潜るくらいの雪になっておりました。
無積雪の時はなんともないへつり道ですが、道巾は狭いところだと10cmくらいしかなく、左側は崖になっていて、足を滑らせれば一瞬にして命がなくなるような、そんなへつり道で、そこに雪が20センチくらい積もっていて、大変に歩きにくく、一歩一歩慎重に歩を進めなければなりませんでした。
いつもは何気なく歩いていたへつり道に思わぬ大苦戦で、登頂は無理だろうと思いつつも心のどこかには淡い期待を抱いておりました、しかし大熊小屋に着く頃には完全に諦めざるを得ない時間になっており、テンションは下がる一方でした。要するに分かりやすく言えば、このような心理状態を一般的には「さげポヨー」と言います。
大熊小屋手前の西俣川に架かる吊橋は途中で腐れて折れ曲がっていて、そこに雪が積もっており、おまけにキノコまで出ている始末で、ちょっと怖い吊橋になっておりました。
そのキノコは残念ながら食べられなさそうな種類の物でしたが、これがナメコのような食用キノコだったら一石二鳥、素晴らしい吊橋になっていたと思います。
以前に三面の一本吊橋が、渡る時のあまりの怖さにテレビの珍百景で放映され話題になりましたが、ここもいつかナメコでも生えてくれれば、それに匹敵するものになることでしょうし、それが舞茸なら三面を越えてしまうほどの珍百景になろうかと思います。
今後に期待しましょう。
大熊小屋からは脛か膝くらいまでのラッセルとなりましたが、わかんを着けずに我慢して西俣川の吊橋よりも怖い、大熊沢に架かる橋を渡ったところで、ようやくわかんを着けました。
ここからは危険なへつり道も怖い吊橋もありません、ただ上を目指して登るのみになりますが、なんとも残念なことに時間が僅かしか残されておりません、標高にして850mくらいまで登った時点でタイムオーバーとなりました。あと2時間半くらいあれば杁差岳に登頂できたのに・・・、「やっぱり丸森尾根にすればよかったかな」とか、そんなことを考えたりして、少しガッカリしながら、雪の下から凍った腐れる一歩手前のナメコを採りながら長いへつり道を戻りました。
そして帰りは行く時の倍くらいに感じながら、最後はヘッデン頼りに大石ダムへと無事に辿り着きました。帰る時は雪がかなり解けていて助かりました。
今回、久しぶりにこのルートを歩いてみてつくづく「山奥だな~」と感じました。
杁差岳こそ飯豊連峰の一峰として、あるいは200名山にも選出されている有名な山ではありますが、足の松尾根を辿って山頂を目指す登山者がほとんどで、この大石ダムからのルートを辿る登山者はごく僅かのようです。
関川村には女川山塊という大秘境、さらに県境紛争未解決地帯、あるいは大蛇伝説が残る神秘的な大里峠などがありますが、この大石ダムから杁差岳に至るルートも日本の辺境といった雰囲気が漂っている素晴らしいところです。
杁差岳はエブリという農耕器具を持った人の雪形が現れるところから来ているとされていますが、それ以外にも東北地方の胆振鉏(えぶりさえ)というところから移住してきた人々が朝夕仰ぎ見る山に、故郷の名前をつけたという説も根強くあるそうです。
終わりに
下山時、大石ダムのトンネルを歩いているとカメムシが大集団で冬篭りの支度をしているようで、登りで通過した時に気持ち悪さを感じた原因がカメムシだと判明しました。
人家で越冬する習性のカメムシはクサギカメムシという種類で、秋に集団で民家内に大発生し、公害を引き起こします。
ここ近年、秋になると大発生しているカメムシのことが気になり調べてみました。
カメムシの臭いは自身の身を守る防御として長い間考えられてきたということですが、実験でムカデとカメムシを同じ容器に入れてみたところムカデはいとも簡単にカメムシを噛み殺したということです。ムカデは噛み殺したあとでニオイに辟易し、カメムシを離したということなので、防御にはならないということです。
また、私の知り合いの猫に虫をよく食べる猫がいます、この猫でさえカメムシを食べたあとに吐き出し、二度とカメムシを食べようとはしませんでした。
また、密閉した容器にカメムシを入れ、ニオイを出させると自らのニオイで死んでしまうそうです。
ムカデや猫に食べられはしなかったものの噛み殺され、防御どころか挙句に自分自身でさえ絶命してしまう強烈なニオイは何のために出すものなのか、いろいろ研究してみてもハッキリとした答えがまだ分からないそうです。しかし一匹が攻撃を受けてニオイを出すと、周りの個体が物陰に隠れたりするということから他の個体に危険を知らせる警戒のためのニオイなのではないかということです。
さてそんな悪臭を放つカメムシですが、実は海外では好かれているニオイのようで、特に熱帯地方のパクチーと呼ばれている野菜はカメムシ臭がして、東南アジア周辺では好んで食べられているそうです。日本人旅行客はとても食べることができないそうです。
新潟の山間部でカメムシはヘンクソ虫と呼ばれているところが多いようですが、日本全国に方言がありヘフリムシ、ヘッピリムシ、ヘッコキムシ、クサムシなどなどいかにも臭そうな方言ばかりです。四国ではジャクセンと呼ばれているそうですが、これは石鎚山の開祖と言われている寂仙という人が虫除けの霊験を認め、虫除けを祈願したところからきているということだそうです、また中国地方では八塔寺というお寺に虫除けの祈願をしたというところからハットージと呼ばれているそうです。
また愛知の信楽地方ではカメムシはおだてに弱いとされていて、カメムシを掴むときに「男前」とか「いい嫁さん」といって掴むとニオイを出さないという言い伝えがあるそうです。
さてさて、今年は去年以上にカメムシが多く発生したということですが、カメムシの多い年は大雪になると言う人がたくさん居られます。
この日のような天候と雪の量なら正月の飯豊は楽勝です、これ以上降らないでほしいと願いたいのですが、これから冬本番、どんどん雪の量は増していくばかりです。