飯豊巡礼

1日目

梶川尾根~門内岳~北股岳~御西小屋

2日目

御西小屋~大日岳~西大日岳~薬師岳~御西岳~飯豊本山~ダイグラ下山

 

はじめに

地図を眺めているとその地図上には大変に多くのいろいろな山名が記載されておりますが、一部の山にだけ登山道があり、それ以外の多くの山には登山道がありません、何を基準に道をつけたり、つけなかったりするのでしょう?

また、その登山道は誰がいつ何のためにつけたものなのでしょうか?

 

登山ブームという時代の流れも手伝い、地元の自治会や山岳会等で町興し等のために登山道が整備されたような山も近年は見受けられるようですが、現実的に山に道を切り開くということは、気が遠くなるほどの大変な労力が必要ですし、それをすることによって利益が得られるようなことはほとんどなく、また草刈や崩壊箇所修復等の維持管理にも莫大な労力や資金が必要になり、それらを考慮しても登山者が登山をするために道が切り開かれたというような山は、大変に数少ないものかと思われます。

 

ひとつひとつの山にはそれぞれの理由があって道がつけられており、それらの道がなぜつけられたのかを調べるということは山そのものの歴史を紐解くまでに発展してしまう場合がほとんどで、それを調べ上げることは容易なことではありません。

 

飯豊の話しになりますが、そんな飯豊連峰にも御多分に漏れず大変に多くの登山道が作られており、そのうち飯豊本山に通じる登山道については御存知の方も多くおられるかと思いますが、飯豊は信仰の山であり、飯豊本山には神社が祀られ、山中では修験者たちが厳しい修行を積み、そんな修験者によって、あるいは神社を登拝する人たちによって道が切り開かれたとされております。

今回は飯豊巡礼ということで行ってきましたが、飯豊には山頂本社以外の場所にも神様や如来様が祀られております。正月の飯豊登山の安全を祈願しようと思い、それらの神様や如来様を訪ねて歴史を感じながらの、登山というより登拝をしてまいりました。

 

 

飯豊の神様、仏様

飯豊には日本古来の神様である王子権現や八百万神(やおろずのかみ)あるいは仏教の如来様、菩薩様がごっちゃになって祀られております。

日本国内には神様や仏様以外にも不動明王や帝釈天といったヒンズー教の神様が祀られている山も珍しくなく、飯豊の登拝路道中にも様々な神様が祀られている様子が見られます。

これについて宗教の歴史を調べてみると、例えばキリスト教とイスラム教、あるいは仏教と儒教が対立したりして宗教戦争が起きるような他国と違い、古来の日本人は宗教上大変に温和だったそうで、多国籍の神様を分け隔てなく受け入れていたとされています。

 

飯豊本山は西暦652年に熊野修験者である役小角(えんのおずね)が修行のため知道和尚とここを訪れたのが歴史上では最初ではないかとされているようです。この時に「飯を豊かに盛ったような山」と言い、いくつかある飯豊の山名由来のひとつとなっております。

 

役小角ら修験者は飯豊山中で厳しい修行を積み、それにより登拝路がつけられ、当時は七ヶ所の登拝路がつけられたとされているようです。

現在それらは廃道になったものがあるようですし、付け替えられたものもあるそうで、いろいろ姿形を変えながら、登拝路というよりも登山道といった形態で今に至っているそうです。

 

また彼らは飯豊に農業の神様と言われている王子権現を祀りました。その王子権現は五つ祀られ、一王子を御前坂の上部付近に、二王子を二王子岳に、三王子、四王子、五王子を山頂付近に祀ったとされています。山頂本社付近には王子権現様以外にも五穀豊穣、身体堅固、家内安全、商売繁盛を願い、八百万神をはじめとした多くの神様や仏様が祀られているようです。

 

※注釈

今までに私が興味を持ち、宗教や仏教及び山の歴史等に纏わる本を読んだり、調べたりしたことをここで書きましたが、知識を人様にひけらかすような気などはまったく無く、また私のような地位や名誉、あるいは学識や才能がまったく無い者が、ましてや歴史や民族学者であろうはずもない私がここで書いたことは、記述のすべてが正確とは言いがたい面もあるかも知れませんし、あくまで趣味の範囲として御理解と御容赦頂ければと思います

 

 

巡礼の旅

さて、本気で書こうと思えばまだまだ宗教の話題はつきませんが、そろそろいい加減、登山の話に移らなければなりません。

これ以上、私の宗教話につき合わせていては、これを読まれている方に申し訳ないですし、飽きられてしまいそうですね。

ここからは登山の方にも多少は話を向けようと思いますが、私自身あまり登山話は得意でなく、登山についてはあまり詳しくない上に、書きなれていないということもありますので非常に苦手としております。そんなことで幼稚で拙い文章になろうかと思いますが、一生懸命頑張りますので、もし許されるものならば、我慢してお暇な時にでも読んでみてください。

 

そろそろ紅葉がはじまった飯豊には、どのルートで行こうかいろいろ迷いましたが、今回は久しぶりに梶川尾根を登りました。

私が今回、巡礼目的で訪れた場所は飯豊本山、大日岳、御西岳、薬師岳の4箇所です。

梶川尾根からだと最初にお参りするのは阿弥陀如来が祀られている御西岳になります。

まずはその御西岳目指して梶川尾根を登りますが、今回は荷物が重く、なかなか思うように進みません。

梶川尾根はあまりにも普通すぎて面白みが無く、私自身あまり使うことはありません、稜線部の紅葉が綺麗なのでないかと思って梶川尾根を登りましたが、まだ紅葉には早いようで、見事に当てがはずれてしまいました。例年に比べて今年の紅葉は遅れているみたいです。

おまけに今日はガスの上がりが早く、10時頃にはすっかりガスにまかれてしまい、視界20mの中を重い荷物に喘ぎながら、巡礼というよりもまるで修験者が修行をするような気分でひたすら行進するのみで、あとは滝に打たれて身を清めれば、本当に修験者になれそうでした。

巡礼というからには本来は白装束にでも身を包み、下駄でも履いてくれば良かったのですが、残念ながら断念。今回は完全に登山道の無い薬師岳まで行くつもりなので、代わりと言ってはまあ何ですが、藪漕ぎ用の作業服に身を包んでのお参り登山となりました。

 

ちなみに私の作業服は、お洒落登山用と藪漕ぎ登山用に使い別けております。

お洒落登山用の作業服は、ややグリーンがかった配色がとてもお洒落な作業服で、胸ポケットの部分にワンポイントで紫色(英語でパープー)が施され、それがとても鮮やか。異性からも注目を浴びること間違いなし。主に北アルプス方面で活躍しそうな予感。

藪漕ぎ登山用の作業服は、やや厚手の生地で、ドブ鼠色(英語でグレーとはちょっと違うような気がします)の配色は、逞しさや男らしさを演出しており、まるで戦う男のような強さが際立たされる、そんな魅力が持ち味の作業服です。主に飯豊連峰や朝日連峰、あるいは登山道の無い山で威力が発揮されること間違いありません。

 

まあ、そんなどうでもいい作業服のことはおいといて、今日は御西岳で阿弥陀如来様と大日岳で大日如来様をお参りしようかと考えておりましたが、時間や天候を考えて阿弥陀如来様にお参りをして、そのまま御西小屋で宿泊することになりました。

それにしても荷物も確かに重かったのですが、思うように進むことができず予定が大幅に狂ってしまいました。紅葉の当てがはずれ、ガスの中の行進といったことで確かに気力が落ちてしまってはおりましたが、やはり以前と違い、重い荷物に苦しみ、明らかに体力が落ちていることも実感してしまいました。

 

久しぶりに人で賑わう山小屋に泊まりましたが、いびきをかく人や頻繁に代わる代わるトイレに起きる人、理由はないが居るだけでなんだかうるさい人、とにかくゆっくり眠ることができません。やはりテントがいいということも実感しました。

 

翌日は、やや寝坊気味でやっと目を覚まし、これからまずは大日岳とその奥の薬師岳へと向かいました。昨日のガスは晴れ、やや曇り加減の空模様。

飯豊本山神社から見ると手前に阿弥陀如来、真ん中に大日如来、奥に薬師如来という順番で並んでおります。いずれも本殿や社務所といった建立物は無く、おそらく登拝者は奥の院である飯豊山神社まで来ると、ここから三つの如来様を遥拝していたのではないかと推測されます。

中央に大日如来、そして薬師如来と阿弥陀如来によってその脇侍が固められていて、仏教の中でも最高峰である如来様3名が贅沢にあしらわれていて、私としては遥拝ではなく是非ともじかに訪れてお参りしたいと、常日頃から思っておりました。

 

さて、ここで少し如来様について説明したいと思います。

現在、仏教界では5人の如来様が存在しております。如来様とは修行僧が修行を積み、悟りの境地に到った人のことをいいます。ちなみにまだ修行途中の修行僧を菩薩様と言いって区別されるようです。

その如来様の中でも最初に菩薩から如来に昇格した人は釈迦如来様で、一番格上の如来様です。お釈迦様の仏像や絵をいくつか見てみるとパンチパーマやつるつるのはげ頭、それから長髪の物もあるようです。パンチパーマの仏像は少し伸び加減な感じで、服装もボロボロの物を着用しているような物があり、とにかく身なりが汚いのが多い。これにより、あまり外見には気を使わないで、床屋さんも安いところを利用しているということが伺えます。それにしても、仏教で最高の地位にある釈迦如来様が祀られた山は日本国内に非常に少ないのは不思議です。

そして釈迦如来の存在を脅かすほど成長を成し遂げた人が大日如来様です。大日如来様の姿を見ると、いずれも長髪で、金ぴかの装飾が施され、髭をたくわえている物もあります。他の如来様は真剣な表情の物しかないのに対し、大日如来様は薄ら笑いを浮かべた物があり、何だか仏教界の好色色男といった感じまでしてしまいます。金銀財宝が大好きなお洒落で派手好きな如来様ということのようです。

薬師如来は名前が示すように、左手に薬壷を持ち、人の病を治す仏様とされています。

比較的地味な仏様ですが、山岳信仰上では大変に人気があり薬師如来が祀られた山は日本国内で一番多いのではないでしょうか。

阿弥陀如来様は最近やっと菩薩様から如来様に昇格したばかりの人ということで、如来様の中では一番格下ということになります。しかし身なりは非常にキチンとしていて、鎌倉の大仏像などに象徴されるその姿は清潔感があり好感が持てます。特筆すべきは綺麗なパンチパーマで、きっとさぞかし名のあるカリスマ美容師によって施されたということが推測されます。

そして5人目の如来様は大日如来の別の姿とされている人で、奈良の東大寺の大仏様で有名な毘留遮那如来という人です。この人は大日如来と同一人物ということですが、東大寺の仏像は素晴らしいパンチパーマで、明らかに他の大日如来像とは違います。顔つきは髪型の影響が大きいようで、がらの悪いまるでどこかの組員のような感じの如来様です。

日本国内に毘留遮那如来様が祀られている山は聞いたことがありませんが、朝鮮半島には毘留ヶ岳といった山名がいくつか存在するそうです。

 

大日岳と薬師岳、この二つの山名は日本国内に非常に多くあります。

日本山名辞典で調べてみると大日岳あるいは大日山、大日峠等の大日の名前が付くところは33箇所、薬師岳あるいは薬師山、薬師峠等の薬師が付くところは59ヶ所もありました。

また、山名こそ薬師岳ではないものの、薬師如来様が祀られた山は大変に多く存在しており、その数は計り知れません。

 

登山の話に戻りますが、大日岳までは通常ルートということでここまでは皆さん普通に訪れていることでしょう。

ここから三角点のある西大日岳を目指しますが、踏みあとがついており、苦も無く行くことができます。ここから薬師岳は目の前にあり、すぐにでも行けそうですが、踏み跡はすっかり途切れていて、藪の中に突入しなければなりません。

どこをどお通っていくかは各人自由です、一旦高度を下げ藪は薄いけど滑りやすい草付きのトラバースを選ぶか、高度を下げずに灌木帯を強行突破するか、中間の笹薮を歩くか自由に選べます。自分の背丈を越える笹薮はもがき苦しむのでそこは草付きを歩き、腰程度の笹薮なら足の力で前に進み、距離が短いのですぐに薬師岳に到着。山頂は1メートル四方程度が綺麗な平地になっており、あとは何も無い山頂でお参りをしました。

そして最後の巡礼の地である飯豊本山と飯豊山神社の本社がある避難小屋脇付近まで往復し、ダイグラ尾根の下山に取り掛かりました。

しかし下山しながら考えましたが、今更ながらダイグラ尾根は本当にキツイ!下山で使うものではない!盛夏にここを登りましたが、下山の方が苦しいような気がします。

 

宝珠山のピークは改めて6箇所あるということに気がつきましたが、下山をしているのに何故か6箇所のピークはどんどん高度を上げていきます。しかもほとんどが岩場のトラバースで登り下りを繰り返し、斜面で足を滑らせると一巻の終わりという場所が非常に多く、鎖やロープも整備されておりません。

ようやく宝珠山を越えても、今度は千本峰が待っています。千本峰は確か四つの急峻な岩峰のピークから成っていると思いましたが、同じような景観のピークが連続して目の前に現れ、がっかりしながら急な登り下りを嫌というほど繰り返します。

私としては人工的な物はできれば使いたくありませんので、個人的には良かったのですが、一般的に千本峰にも鎖かロープがあってもいいのではという箇所が多くありました。

 

疲れもピークに達した頃、目の前の楢木には立派なマスタケ(マツタケではない)が出ており、そのあまりの大きさにびっくり!疲れが吹き飛びました。

しかし花を見たら疲れが吹き飛んだという話はよく聞きますが、山に生えている食べ物を見て疲れが吹き飛んでしまうなんて、自分のことながら感心してしまいました。

 

休み場の峰でようやく一息、あとは長大で急な斜面を下りきって吊橋に到り、温身平から飯豊山荘の林道はドッと出た疲れにも我慢をしながらのいつもより長い歩行となり、駐車場の自分の車に着いた時は思わず地面に腰を下ろし、しばらく動くことができませんでした。

 

とにもかくにも正月の飯豊の安全祈願はこれで終わり、これからいよいよ苦しい苦しい正月山行に向けて本格的な準備が始まります。

 

コースタイム

1日目

飯豊山荘 1時間20分 湯沢峰 30分 滝見場 30分 五郎清水 55分 梶川峰 41分 扇の地紙 16分 門内岳 47分 北股岳 20分 梅花皮小屋 46分 梅花皮岳 22分 烏帽子岳 1時間44分 御西岳 

2日目

御西小屋 45分 大日岳 23分 西大日岳 16分 薬師岳 16分 西大日岳 24分 大日岳 37分 御西小屋 35分 飯豊本山 10分 本山小屋 10分 飯豊本山 1時間26分 宝珠山 2時間9分 休み場の峰 1時間20分 吊橋 20分 温身平 17分 飯豊山荘