行先 毛猛山と桧岳

 

日時 平成23年4月16日

 

前書き

岳人という雑誌を皆さん御存知かと思われますが、その雑誌の2004年4月号でマイナー12名山という特集が組まれ、新潟県ではなんと12座のうちの6座が選出されておりました。

飯豊の尾根に連なる烏帽子山、朝日連峰の以東岳北部に位置する化穴山、川内山塊の盟主矢筈岳、尾瀬の奥座敷といった風情の赤倉岳、越後三山に隠れるように聳えるネコブ山、そして手付かずの自然を残している毛猛山塊の盟主毛猛山。

 

ただ私個人的には、せっかくのマイナーな名山で、愛好家がひっそりと楽しんでいた山なのに、雑誌で紹介されてしまってからはマイナーな山ではなくなってしまったと思っております。

雑誌に掲載されれば当然ながら多くの人が訪れ始め、ネットの時代である今日、情報が網羅され、その情報によりまた人が入山するといった具合で、今となっては大変にメジャーなマイナー12名山といったふうに認識しております。

 

せっかくの休日に喧騒から逃れて山に来ているのに、人口構造物が点在し、よく整備されている登山道を、標識に案内されながら歩き、自然の中に来ているつもりが人だらけ。それが現代の登山の現状なのだろうと思います。

それとは対照的に、マイナーな名山に登るということは、人と遭うことは稀で、自分で考えながら場所を選んで歩き、静かな自然の中に身を置くことができる、自分だけにしか味わえない自然を満喫しながら、至福の時を過ごせる、そんな大きな魅力があるものと思います。

ただやはり登山道がない分どうしても通常の登山にくらべ、リスクや難易度が高くなり、どこをどう歩いて行けばいいのか地図読みから始まり、登山口までのアプローチも悪く、歩ける部分も当然整備されているわけはなく、いつも以上に行程や装備等はしっかりとした計画が必要になってきます。

そうそう、しっかりとした装備で思い出しましたが、先日頭布山に行った時に食料と間違って生ゴミを持って行ってしまいました、でもその時は見なかったことにしました。何か問題が発生した時は見なかったことにすると物事がスムーズに運びます。

 

毛猛山について

登山口が分かりにくいと思いますので、そこから説明します。

関越自動車道の小出インターを下り、旧入広瀬村へ。浅草岳の登山口のある大白川に向かいます。国道252号線沿いのJR大白川駅を過ぎ、集落を過ぎるとすぐに車輌通行止めになり、そこの駐車スペースに車を止めておけます。ここまで関越自動車道小出インターから車で約40分程度です。

車道を歩くこと約1時間、大雪崩2号スノーシャッドの手前から線路に下り、鉄橋を渡ります。鉄橋を渡るとすぐに何処でもいいから斜面に取付き、何でもいいから上へ上へと目指します、方向的に毛猛山は右方向なので、尾根も右側の尾根に乗るような感じで進むとスムーズです。ちなみに線路へ下りる箇所についてですが、スノーシャッド名は小雪崩2号スノーシャッドとか紛らわしい名前のものがあるので間違わないようにしなければなりません。

取付き箇所や尾根の方向といったことは、とにかく事前に地図を良く見ることが必要です。特に難しいことはありません、あとは尾根伝いに足沢山、太郎助山、百字ヶ岳を越えて進むのみです、確かにこの間も尾根がたくさん派生しておりますが、地図をしっかり見ておけば特に難しい箇所はありません。

毛猛山は矢筈岳と比較されることがあるようですが、痩せ尾根や、急壁といった嫌らしい箇所、危険箇所もなく、距離もわりと短く、山頂手前の最後の登りで少し疲れましたが、矢筈岳と比べると随分楽に登頂することができる山でした。毛猛山は登山道の無い名山の中では初心者向けの山だと思います。

 

毛猛山頂からは越後三山や荒沢岳が黒又川を挟んで大きく見え、尾瀬の山々や南会津の山々が望まれ、北の方向には浅草岳や守門岳その奥には川内山塊の矢筈岳や青里岳、五剣谷岳等が遠望できます。

周辺には名山が多く密集しており、そんな名山に囲まれてひっそりと只見の奥に佇んでいる印象の静かな山でした。つくづくマイナー12名山に取り上げられたことが残念でなりません。                                                    

 

ところで何故、毛猛山なのか?日本全国に毛の付く山名はいろいろ多くありますが、私にとっては非常に好感のもてる毛無山といった山名が特に多くあるようです。毛猛山は私にとって嫌な山名です。

おそらく毛とは髪の毛ではなく山に生えている木々のことを指しているものかと思われます。毛猛山は木の密度が猛々しい山ということになります。また、猛とは小さいとか少なという意味もあり、それだと木が小さく少ない山ということになり、まったく正反対の意味になってしまいます。確かに山頂は背の低い灌木と笹で覆われておりました。それ以外にも魚沼地方の古い文献では希望岳といった名前になっているものもあるそうです。

山名の由来については当て字や方言等いろんな要素があり、正確なことは分かりませんが、ただ毛猛山の歴史上、信仰の山といった記録はもちろんなく、鉱物資源採取といった記録も見当たらないので、そこから山名がきていることはなさそうです。

しかし近くには銀山平といった地名があるようにかつて幕末の頃には尾根続きの隣の未丈ヶ岳から大鳥岳方面に鉱山道があったそうです、また材木を運ぶ伐採道としても活用されていたということです。もしかして採鉱あるいは伐採の職人達が毛猛山まで足をのばしていた可能性も大いにあると思いました。

しかし只見の深い奥地にある山塊で、途中に太郎助山といったマタギの名前がついたと思われる山名の山があることからも、マタギが出入りしていた狩猟の山だったのではないかと推測できます。

ちなみに途中通過する足沢山は悪沢の当て字ということですし、百字ヶ岳は一と白の組合せで越後三山を一に見立て、山に雪が積もり白く見えた時にその白の上に越後三山が見えるので百字ヶ岳と名付けたという説、あるいは地元の常安という人が百歳の時に登頂したことから百爺岳が百字ヶ岳になったという説、あるいは本来はももんじたけと読み、ももとは古語で崖といった意味があることから名付けられたとの説もあるようです。

 

さてさて、無事に毛猛山に登頂した頃には気温が上がり大変に暑くなり喉が乾く、酒が弱い私ですが今回は大変に珍しくビールを持参してきておりました。私は単独登山の時は日帰りでも泊りでも滅多にアルコールを持参することはありません。

しかし今回は…、「いや、美味い!」アルコールは発汗作用があり、かえって喉が乾くと学術的には言われているようですが、350ml缶1本程度なら喉が潤い、ひと時の幸せを味わうことができました。

その代わりアルコールのせいなのか毛猛山の下りでは登りでまったく落ちなかったクレバスに何度も落ちました。一歩一歩面白いほど落ちる、凄く不思議です。これから桧岳に向かうのに大丈夫だろうか?しかしアルコールの影響で気が大きくなった私は「てやんでぃ!桧岳だって?笑わせんじゃねーよ!」と一人でくだをまきながら何度もクレバスに落ち、雪まみれになりながら向かいます。

しかし百字ヶ岳から急な斜面を下っている頃には酔いは醒め、桧岳の嫌らしい斜面を見ながら急に気が小さくなり「やっぱ帰ろうかな。」って何度も思いました。

急な長い登り返しが嫌なのと、気温が上がり雪崩の心配が出てきたからです。危険そうなら無理せず戻らなければなりません。

百字ヶ岳からの長い急坂を下りきると小さなピークを超えます。少し登ってまた急坂を下りますが、あまりに急すぎて下れない、少し思案し右側を大きく巻き、ブッシュと雪面の境目をブッシュに掴まりながら後向きで斜面を下り、最低鞍部に出ました。この急斜面は雪が薄くブッシュもあり、雪崩の心配はありませんでした。

これから桧岳の長い登りに入りますが、最初は落差約30m程度の雪の壁を登ります。ここが今日一番の雪崩危険ポイントと思われましたが、まだ雪が多く、しっかり付いており、クレバスも見当たらず大丈夫と判断し雪壁にしがみつきました。雪崩に警戒しながら一歩一歩ステップを刻みながら登っている時の出来事でした、右足を上げた瞬間ビリビリっと音がして「うわっ、まずい!!」、「大変だー!!」…。ズボンの尻の部分が破けてしまいました。雪壁を登りながら時折風が吹くたびひらひらと私の尻は顔を出します

この雪壁を登りきると、今度は概ね高度差100mくらいでしょうか、細めのかなり急な尾根を登り山頂直下に出ます。

最後に落差5m程度で雪がオーバーハング状に付いており、まともには通過できず、右側を巻いてここを乗越え、山頂に立つことができました。簡単だった毛猛山と比べると桧岳は大変に厳しかったです。

山頂で破けた所に手を当ててみると尻が出ている、どうやらズボンだけではなくパンツまで破けてしまったようだ。このパンツは伊勢丹の紙袋と同じ模様のパンツで気に入っていたものです、「残念、もったいない」。やれやれと腰を下ろすと、雪が尻についてとても冷たい、痔になりそうです。

桧岳山頂からは毛猛山以上にさらに大きく越後三山が見え、足元には黒又ダム湖が白く凍り付いておりました。

ちなみに、この桧岳は昭和37年に登山道が切り開かれたということですが、その後管理する人がいなくて、今となってはその面影すら見ることが出来ませんでした。

 

下山後…。

今回の山行は気温が上がることが予想され、歩きながら斜面を良くチェック観察し、まだ雪が多すぎて雪崩の心配は大丈夫と判断して進んだ斜面が多くありました、しかし案の定翌日の新聞を見てみると雪崩遭難の記事がありました。

ただでさえ今は地震災害で救助機関も手薄状態なのでしょうから、判断等には十分に気をつけなければならないと思いました。

 

肉体的には大して疲労感はなかったものの、足腰が痛み「どうしたのだろう?」と良く考えてみると朝4時半頃から歩き始め、車に戻ったのが夕方6時半。そりゃ疲れて当たり前、年齢から来る関節痛ではないと変に安心してしまいました。しかし毛猛に関しては厳しい箇所がなかったものの、時間はかなりかかっており、やはり登山道の無い山の難しさを実感しました。

 

また、残雪期特有の強い紫外線が降り注いだ日でもありました。私は暑かったので汗止めのはちまきをしたまま歩きましたが、これも案の定見事にはちまきの跡の付いた日焼けをしてしまいました。

汗をかいたので帰りに神の湯という温泉に立ち寄りましたが、温泉の店員さんが私の顔というか額を見てニコニコしています、しかも忘れていましたが後姿は歩くたびにひらひらと尻が顔を出していたかと思われます。

翌日、額に日焼けの跡が残ったまま出勤。仕事の打ち合せ中、相手の人は私の顔ではなく明らかに額を見て打ち合せをしている、とにかく行く先々で笑われ、買い物に行ってもレジのおばちゃんが笑いをこらえているのが分かります。可愛そうだからおばちゃんに「いや、はちまきをして日に焼けると大変だね。」っ言うと、やっと声を出して笑ってくれる、笑いを我慢していた分、思いっきり笑われる。

日本が大変な災害で落ち込んでいる時に私は各地に笑いを振りまく天使のようになっておりました。

 

メジャーな山も確かにそれはいいものです、しかし時には登山道が無いような山やあまり知られてないような山にも目を向けてみることも自身の登山の楽しみや知識や技術向上のため、あるいは新たなる登山形態の発掘等々、大変に良い事なのではないでしょうか?

たまには皆さんもマイナーな山へ行きませんか!もしかすると新鮮な新しい自分自身に出会えるかもしれませんよ。

 

コースタイム(その時の状況によるので、参考になりません。)

車止め58分大雪崩2号スノーシャッド55分765m峰1時間12分足沢山1時間18分太郎助山23分百字ヶ岳1時間毛猛山47分百字ヶ岳1時間30分桧岳1時間30分百字ヶ岳25分太郎助山47分足沢山2時間10分大雪崩2号スノーシャッド1時間2分車止め