十字峡周辺の山々その3(中ノ岳~丹後山)

 

日時 79

 

はじめに

飯豊や朝日は風がとても爽やかです、確かに真夏は気温が上がり北アルプスあたりに比べるととても暑くて登頂が大変です。

しかし残雪を多く湛え、暑さの中にも涼しさがあり、良き夏の山といった感じがします。

稜線のオアシスを求め、大汗をかきながら登る登山者の姿に夏山の風物詩を感じ取ることができます。

 

「夏は新潟県の山には登るものではない。」あるいは「暑い時は3000m級の山々に限る。」などといったことを耳にすることがあります。

しかし山の春夏秋冬それぞれの景色は非常に美しく、真夏に2000m級あるいはそれ以下の山々を敬遠する方はいつまでもそれらの夏山の良さを知らないままでおられるものではないでしょうか。まして春夏秋冬どころか山は一週間違えば、景色もまったく変わるものなのですから。

 

「夏の飯豊や朝日は綺麗なものですよー。」、3000m級の岩だらけの山にはない大らかな草原の美しさがあり、訪れないと損をすると思います。

それに「夏はアルプス」なんていうと視野が狭い登山になってしまいますし、私自身の気持ちとして安易にそちらに逃げてしまうようなことはしたくありません。

ましてや夏の北アルプスなんて言うと人だらけで、お金があればあとは何も必要ないような、山を知らなくても簡単に行けるような、登山ではなくリゾート地、あまりにもチャラチャラしすぎて逆に私は敬遠してしまいます。ただし、友達と楽しく避暑地へ遊びに行くという感覚であれば別ですが…。

 

ところが、そんな私でもさすがに夏の越後三山周辺はとても辛いです。

十字峡シリーズも3回目になりましたが、実は上信越の山々は私でも敬遠したくなるほど猛烈に暑い地域です。今まで夏場に幾度もこの周辺を訪れておりますが、越後三山のあの登り下りの激しい稜線を歩いている時は本当に灼熱地獄です。

どういう訳かこの山域にはほとんど風がありません、やっと風が出てきたと思えばそれは熱風で、残雪が多く見られるのにどうしてなのでしょう?それに尾根が鋭く形成されていることが原因かと思われるのですが、ほとんど水場がありません。これも本当に辛いことで、確かにこれらのことを考えると「夏は3000m級。」と言われる方々の気持ちも分からないでもありません。

私自身、今まで夏にこの周辺を訪れた時は「ここは本当に山なのか?」と思うほどの、あまりの猛暑で大汗をかき、体中ドロドロになり、まるでボロ雑巾のようになりながらフラフラ状態でやっと歩いているような始末です。(いつでもどこでもボロ雑巾のようになって歩いていますが…。)おそらくここで私とすれ違った人は遠くから見ると、汚い雑巾のような物体が前から歩いてきているように思えるのではないでしょうか。

夜のテントも暑くてなかなか寝付くことができず、疲れを癒すことですら出来ない有様です。

 

今年はそんな十字峡周辺を徹底的に偵察してみようと考えておりましたが、それは真夏前に偵察は完了させるつもりでおりました。さすがの私も真夏にこの地域は避けようという目論みでいたわけです。

しかし梅雨時期に入ると、雨の毎日が続いてなかなか予定通り十字峡偵察を遂行することができないでおりました、そして今週末も天気予報は雨、今週末は何をして「過ごそうかな?」なんて考えて週末の山はまったく諦めていました。

78日の金曜日の夜、ピザパイの作り方教室に行き、夜の9時半頃帰宅して天気予報を見ると、週末の天気ががらりと変わっているではありませんか!

梅雨の晴れ間と思い、夏本番になる前にもう少し十字峡周辺を探っておきたかった私はチャンス到来と考え、慌てて準備をし、三度、十字峡に向かう運びとなりました。

本当は一泊で行きたいところでしたが、諦めていたなかでの急な天気予報の変化で、一泊で行く準備の時間があまりにもなさ過ぎてしまい、残念ですが今回は日帰りということで我慢することにしました。

 

本題

今回は準備の都合もあり、中ノ岳~丹後山周回といった平凡なルートになりましたが、実はそんな普通の登山道を普通に歩いているのでは私自身も面白くありません。

途中にある大水上山から平ヶ岳方面を偵察、藤原山方面に歩を進めてみようかと考えておりました。

もし藤原山方面の藪が酷いようなら、丹後山から越後沢山方面を偵察に進んでみるといった行程で、今回の偵察登山を予定しました。

 

朝はまだ涼しいうちに歩き始めようと思いましたが、前日の夜の熱帯夜は寝苦しく、ようやく朝方涼しくなって深い眠りにつきはじめたものですから、朝は簡単に目覚めることができませんでした。「このまま眠っていたら、どれほど幸せなことだろう。」、「ぼかぁ幸せになりたい!」そう思いながら寝ておりました。

しかしそんな馬鹿なことをしているわけにはいきません、重い体を起こし準備を早々に済ませ、中ノ岳の急坂を登り始めました。

越後三山は麓の集落から近く、関越自動車道からも良く見える奥の浅い山域です。

しかし標高は2000m前後もあり、登山口の標高は約500m程度なので一気に1500m程登ることになります。

出だしからかなり急な登りで、生姜畑で一旦なだらかになりますが、ほとんど一直線の急な登りで稜線に出ます。

稜線手前の急坂では完全に太陽は昇りきり、暑さのため意識もうろうになりながら稜線に達し中ノ岳山頂を踏み、すぐに丹後山へ向かいました。

この周辺の山々は侵食が進んでおり、稜線というより山をひとつずつ越えて行くといった感じで進まなければなりません。

中ノ岳から延々と続く急な下りを過ぎると今度は小兎岳、兎岳といったピークを地道に越えて行かなければなりません。

兎岳までは自然保護のため草刈りはされておらず、随分と登山道は藪に近づいてきております。荒沢岳から兎岳まで道刈がおこなわれ兎岳から中ノ岳の間は道刈がされずに、荒れてきており、なにかちぐはぐな印象がします。

 

この山域は前述したように水場がありません、しかしいつもお盆の頃まで兎岳付近には残雪が残っており、一応2.5リットルの水は持ってきていましたが、やはりこの暑い中冷たい水が飲みたいもの、実は兎岳の融雪水を楽しみにして歩いておりました。

そして思った通り、大きな雪田が残り、その下端から轟々と雪解け水が川のようになって流れ、それを見た私は小躍りして喜びました。

「あーあ~川の流れのように~♪」と歌いながら冷たい水を飲みます、多分2リットルくらい一気に飲んだのではないでしょうか?本当に生き返ります。ひと時のオアシスを楽しんで、再び丹後山へと歩を進め始めました。

兎岳からは登山道は整備されていて、特に歩きにくいところはなく標高も徐々に高度を下げていくので体力的にはどんどん楽になっていきます。

しかしこれから大仕事が待っています、大水上山から平ヶ岳に向かい歩いてみるというのが今回の大きな目的なのです。しかし大水上山からほんの2mくらい向かった地点で笹薮が灌木帯に変わりました。大きな谷を隔てて向こう側に見える藤原山との間はほとんどが灌木で覆われているようでした。

これはとても無理、あっさり諦めて、代わりに丹後山から越後沢山の偵察をすることに切り替えることにしました。

 

利根川水源碑に着く頃、昨日の夜なかなか寝付けなかったせいで眠気を催しながら歩いていましたが、そしてとうとう我慢できず、利根川水源記念碑脇で昼寝を始めてしまいました。30分ほど眠ったでしょうか、焼けるような強い日差しの熱さで目が覚めます。

目が覚めると遠くで積乱雲が見え、ゴロゴロと大きな音が聞こえます。

この頃から少しずつガスが掛かり始め、ゴロゴロがだんだん大きくなってきました。

間もなく広い笹薮の丹後山に到着、鋭鋒の山々に囲まれたこの周辺で唯一の大らかな山容はひと時の安心感を与えてくれます。笹薮に混じりニッコウキスゲの群落も見られます。

丹後山の丹とは平坦の坦で、本来は坦高山という山名のようです。

丹後とは昔の京都のことを言い、坦高に丹後をあてたのではないかと思われます。

 

その丹後山山頂に着く頃は濃いガスに覆われ、丹後山避難小屋に着くと同時に猛烈な雨が降ってきました。猛烈な暑さのあとは猛烈な雨…、踏んだり蹴ったりです。

丹後山から越後沢山へ向かうつもりでしたが、激しい雷雨に見舞われ断念することにしました。それよりも森林限界上部での雷は大変に怖いものです、早く樹林帯まで高度を下げることだけしか考えられませんでした。

しかし逃げるように下山をしながら、越後沢山の方向をしっかり確認だけはしておきました、見える範囲では何とか進めそうです。

偵察は今回でおしまいにするつもりでしたが、今度は晴天の丹後山と越後沢山方面の散策のため、いずれまたここを訪れなければならないと考えながら下山しました。

 

終わりに

先日、友達に電話をし、家にゴキブリが出たので退治に来てほしいとお願いしたところ、遥々30分もかけて退治しに来てくれました、実は私はゴキブリが苦手なのです。

上手く言えませんが、黒ずくめのその出で立ちで、触覚を前後左右に動かしカサカサと動き回って誠実さが微塵も感じられないその振舞いは、邪悪な意思のようなものと言うか、逆にどこか人間的なものが感じられ、それはヒューマン的といった暖かいものではなく、人の持つ浅ましさのようなものを感じ、明らかに他の昆虫のような純真無垢な気持ちがまったく感じられません。

 

十字峡周辺の山その2で蛇を見ると100mを9秒前後で走って逃げる方が居られると書きました、自慢じゃありませんが私はゴキブリを見るとおそらく100mを8秒台で走って逃げられると思います。(これも計測したことはありませんが…。)

 

以前、某ゴルフ場で夜間に芝の散水のアルバイトをしたことがあります、夕暮れ時に散水装置のバルブを開こうと場内を歩いていると、ところどころ生えている松からカサカサと音がします。「何だろう?」と松の木を見てみても何もありません。

そして松の木から離れると、またカサカサと音がします。よーく見ると、私が木から離れると木の皮から何かが這い出て来て、近づくと皮の中へ隠れるようです。

そこで私は木の枝を被り、相手に気付かれないようそーっと松の木に近づいて見ると、1本の松の木に100匹以上はいるであろうゴキブリがワサワサと蠢いているではありませんか!「ギャー!」声をあげるとゴキブリはいっせいに皮の中へ隠れ、私は100mを8秒くらいの速さで走り抜けました。

通常、家にいるゴキブリはクロゴキブリがほとんどのようで、他にワモンゴキブリ、チャバネゴキブリ、ヤマトゴキブリ、トーヨーゴキブリといった種類があるそうです。おそらくゴルフ場のゴキブリはオオゴキブリかモリチャバネゴキブリという野外性の種類のようです。

私が子供の頃、ゴキブリやムカデといった虫たちは油虫と言われ、生きたまま捕まえて瓶の中に入れておき、数日すると瓶の中で油を出して死んでいるということです。その油は傷薬ということですが、皆さんも試してみてはどうでしょうか。その油で野菜炒めなんか良いかもしれません。

そう言えば「虫の味」という本を読んでみたところ、生きたゴキブリの頭をひねって引っ張ると綺麗に頭に内臓がくっついてきて取れる、そして翅と足を取ったあと塩水でよく洗い、ポン酢で食べてみた、ゴキブリ特有の臭みがあるそうですが、それなりに食べられたそうです、また同じく頭と内臓を取り除いた胴体をよく洗い、塩を少し詰めて焼いてみたらエビを焼くような香ばしい匂いがし、美味ではないが結構いけるということです、もし良かったらこれもお試しあれ。台湾ではこの塩焼きを薬用にしているということだそうですので…。

 

閑話休題

話しが大きくそれてしまいました、林道ヒキガエルラインにガマガエルとヤマカガシがいないことを書こうと思って、思わぬゴキブリの話に発展してしまいました。

 

前回来た時とは違い林道ガマガエルライン上にガマガエルの姿は無く、ヤマカガシも見当たりません。

何か物足りなさを感じながら歩いていると、前方の方からゲロゲロと声が聞こえるので、ガマガエルかなと思っていたら、林道の傍らに熱中症なのか吐き気を催した人がうずくまっていました。でも車はすぐ近くだし、一人でなく団体だったので、私は気に留めず、ただ本当にこの周辺の山はあまりにも暑くて、夏場は大変なところということを実感して帰路に着きました。

 

コースタイム

十字峡 1時間50分 日向山 1時間43分 9合目 14分 中ノ岳 1時間3分 兎岳 19分 利根