道具の話3

 

朝、会社へ出勤し、デスクワークにとりかかる前にまずは一杯のお茶を飲みながら新聞に目をとおす、私は新聞をすみずみまでしっかりチェックするよう心掛けております。ビジネスマンとして世の中の情勢や動向を知るということは常識であり、あるいは大人としてのエチケットでもあります。

仕事の取引に幅が広くなり大いに業務に役立つうえ、自身の知識向上にもつながります。

さて、そんな私がいつも読んでいる新聞はAKB48新聞です。

新聞の内容はAKB48のことが詳しく書かれていて、会いに行けるアイドルといったことを売りにしているということで、とても身近に感じます。是非ともお友達になりたいものですなあ。

 

話は大きく変わって、山らしい話題に入ります。

今年は3月に入っても天候がなかなか安定せずに、ここ最近の休日はことごとく悪天に見舞われていて、せっかくの山行予定も中止を余儀なくさせられております。

例年3月ともなれば天気が安定し始め、春に向かってどんどん暖かくなるはずですが、今年の場合は320日を過ぎたというのにまだ除雪に借り出されている始末です。

 

それでは日本海側の山は避け、長野あるいは関東あたりの山に行くことも考えてみるのですが、やはりどうしてもあの人が多くて山なのかレジャーなのか良くわからない、雑誌で見るような若者が多くて、カラフルに彩られたあの明るい雰囲気の中に山の魅力を見出すことができず、一応サブで計画までは立てるのですが、結局は悪天の予報が外れることを祈りながら地元の藪山へ向かおうとしては中止を繰り返している、今年はそんな私の3月でした。

 

実は私は登山対象として一年を通じて一番好きな月が3月になります。

3月の飯豊や朝日はまだまだあの厳冬期の厳しさが残っているのですが、天候が安定してくる上、雪もしまってくるので比較的入山しやすくなり、それでいて真冬の山の美しさに出会える時期であり、言わば厳冬期の疑似登山のような、練習のような体験ができます。

ただし…、一度荒れると真冬並みの気象となり、あの恐ろしいほどの自然の驚異にさらされることになるので安易な入山は差し控えなければなりませんが…。

 

とまあそんな悪天続きのおかげで休日は暇になってしまい、今まで酷使していたワカンが壊れかけていたので修理しておりました。

これからの時期は雪がしまってきてワカンが活躍する時期へと移ります。

今回はそんなこれから旬の時期を迎えるワカンのことについて書いてみることにします。

 

最近、冬山に行くとワカンよりスノーシューを履いている人の割合が明らかに多くなってきております。

確かにスノーシューはワカンより浮力があり、深いラッセルにはワカンよりも有利に進むことができます。おそらく、スノーシュー人気の理由としては、その浮力が大半の理由を占めているものだろうと思います。

当初は歩きにくく大変に不人気だったものの、年々改良を重ねてきており、歩きやすくなってきております。

しかし、3月に入って雪がしまりはじめると、浅雪の歩行となり、グリップ力が弱く、長くて足幅が広いスノーシューでは怖くてとても歩きにくくなってしまい、断然ワカンの方が有利になります。

 

そもそもワカンは輪かんじきと言って、北国の人たちが雪上を歩行移動するために使われていたもので、今は除雪技術等が向上し、雪の上を歩くことがほとんどなくなってしまい、それに伴ってワカンは日常生活において不要な道具となってきているようです。

現在では登山用や狩猟用等の除雪区域から除外されたところを歩く必要性がある人のみのための道具となってしまっているようです。

まあ確かに普通にスーパーで買い物をしている人やコンビニあたりでワカンを履いている人を見かけることはほとんどなくなりました。

 

スノーシューと比較しても、劣ることといえば浮力以外は見当たりません。

雪面に対してのグリップ力は雲泥の差があり、外寸径が小さいので狭いところも歩きやすく自分の足と一体化できるところや、ラッセルのとき雪面へ足を引き抜くときにスノーシューの場合はスノーシュー上に雪が乗って重くなりますが、ワカンにはそれがありません。

それに重量も軽いので、途中から雪上歩行になるような山行のときは特に重宝します。

日本の豪雪地帯の山においてワカンは切り離すことのできない未だ重要なアイテムであることは間違いないものだと思っています。

 

従来のワカンは木製の手作りの物でした、私も子供の頃に自分で作った記憶があります。

現在、自分の手作りワカンを履いている人はほとんど見かけなくなり、木製のワカンは今でも販売されておりますが、主流はアルミ製へと移行していて、アルミ製ワカンは丈夫なうえメンテナンスが容易で大変に重宝しております。

 

私はアルミ製ワカンをスノーシューと併用で使っておりますが、5年も使うとピンが飛び、バンドが切れかけてほとんど使えない状態になってしまいます。

そんな壊れかけている物を知らずに履いていき、山中で使えなくなってしまうととても大変です。

今回、バンドとピンをすべて交換し、曲がっていた爪も自分で交換修理してみました。部品に関しては全て純正の物を取り寄せました。

 

修理はまず折れ曲がったピンを取り除く作業が必要ですが、このピンがなかなか取れずに苦労します、手動式の鉄鋼用ドリルで本体を傷つけないよう少しずつ曲がったピンを削りながら最後はペンチで引き抜くか、折って取り除きました。

あとは純正の物を前の状態と同じようにして取り付けるだけです。

私はこういった細かい修理は得意な方で、余談ですが小学校の時、図工の通信簿は5段階で5でした。

ついでの話ですが、私は文章を書くことも得意だったようで、よく読書感想文などで賞をもらっていたことを憶えております、ただその割に国語はいつも2でした、もちろん算数も…。

 

各純正部品が簡単に取り寄せられるのはありがたいことでしたが、ひとつ残念なことは両足分のバンド、ピン、爪一個で新品のワカンが買えるくらいの金額になってしまいました。

バンド類は同等の物がホームセンターに売られているので、それを自分で縫い合わせ、ピンもやはりホームセンターに売られているステンレスのビスとボルトを流用すれば大変安く修理ができると思います。強度的にも十分で、もしかすると純正以上かもしれません。

しかしバンドを縫い合わせる技術が私にはありません、裁縫は自分でもびっくりするくらい苦手です。

 

まあ買うほど修理にお金が掛かりましたが、今はエコの時代、高くつきましたがいずれにしても壊れかけたものを破棄するのではなく再生して資源を大切にしていると、都合よく解釈することにしました。

 

一応、これでワカンの話は終わりまして…、正月に飯豊へ行ったときにカメラが不調になり、せっかく北股岳に登頂できたのに一枚も写真を撮ることができませんでした。

そこで最近、カメラについていろいろ考えておりました。

 

カメラは山道具ではありませんが、人によっては山行にかかせない、大変に重要な道具であるものだと思います。

そこでちょっとついでにカメラのことも書いてみようかと思います。

 

今から16年~17年くらいの話になりますが、その年は大変に少雪で、年末になっても平野部に初雪は降らず、新発田から見る飯豊も黒々としているような年のこと。

例年ですと奥胎内は通行止めとなるのですが、何の工事だったかは定かでありませんが、工事車両がまだ出入りしていて、当時は胎内ヒュッテではなく胎内小屋でしたが、12月末近くだというのに一般車輌も通行可能な、そんな年のことです。

 

12月最後の週末の天気は晴天となり、私は今年最後の飯豊に行こうと、いつもなら入山不可能な足ノ松尾根に登りついておりました。

いくら少雪とはいえ、さすがに姫子ノ峰すぎるあたりからは雪が出始め、水場の辺りからは完全に雪上歩行となりました。

しかしラッセルにはそれほど苦労することなく、大石山ではアイゼンに切り替わり、氷の上を歩くようになっておりました。

いくら何でもこの時期に誰もいないだろうと思いながら頼母木小屋の中に入ると、人が一人居て驚きました。

その人はカメラマンで、冬の飯豊の写真を撮るために数日間、頼母木山に停滞しているのだそうです。

その人から頼母木小屋で一晩、カメラのことをいろいろ教えてもらいました。

私はこの時を境に山の写真を撮るようになりました。それ以降は登山時にはいつも高級カメラを持参するようになっていて、どんどん山岳写真にのめり込んでいきました。

 

頼母木小屋でカメラマンに勧められたニコンF3というカメラは大変に堅牢で高気密なカメラです。

今年の2月に行った唐松岳ですが、15年ほど前にもニコンF3を持って行ったことがありました。

大変に寒い朝、御来光の写真を撮影しようと数名の人がカメラを構えておりましたが、皆さんカメラが凍っていたようでまともに作動しなかったのに、私のニコンF3だけは正常に作動したということがありました。

そんな古き良きカメラ、私の山行の想い出はいつもニコンF3と一緒でした。

 

ただカメラは堅牢になればなるほど大きく、重くなる傾向にあります。ニコンF3は本体とレンズで2kg近くになります。そこに三脚をいれようものなら結構な重量になってしまいます。

以前、正月の飯豊にニコンF3と三脚を持って行き、大変な思いをしたことがあります。

 

今は軽量でコンパクトなデジタルカメラが出現し、最近はフィルムを凌ぐほど画像も進化してきていて、実は私も2年くらい前からニコンF3を山に持っていかなくなりました。

しかし、今回の正月の飯豊でカメラ不調により大変に悔しい思いをしたので、重くても我慢してニコンF3を持参するか、あるいはニコンF3に代わる軽量で機密性が高く、さらに堅牢で低温に強いデジタルカメラがないものか、模索を始めました。

しかしも模索を続ければ続けるほど、デジタルカメラは失望することばかりしか浮上してきませんでした。

 

当たり前のことですが、カメラはカメラ屋さんに行って買うものですし、メーカーもカメラ専門のメーカーで、各社それぞれに個性があって、写真も撮り方によって同じ風景でも、さまざまな表情となり、写真にもその個性が反映していました。

 

しかし今のデジタル化したカメラはカメラメーカーばかりでなく家電メーカーやコピー機メーカーなど多方面の参入、あまりにも多くの機種が氾濫していて訳が分からないような状況の中、カメラ屋さんというより家電屋さんの店頭に陳列され、店員さんに質問をぶつけてみてもチンプンカンプン、私の方がはるかに詳しいということが実情のようでした。

いろいろ調べてみて今のカメラは車と同じで個性がなくなり、どの機種を使っても写りに差はなく、面白みにかけてしまったということに気が付いたという収穫しかありませんでした。

 

最近は防水性、防塵性に優れ、2mの高さから落下しても大丈夫で、低温下でも-10度までは保障できるといったデジタルコンパクトカメラも多く出回っておりますが、五十歩百歩の物でしかなく、実際に飯豊で凍り付いて動かなくなったカメラも-10度まで対応の機種でした。

デジタル一眼レフカメラについても写真写りはコンパクトカメラと大差がなく、堅牢性や密閉性もあまり変わりません。

結局、写真写りについては皆ほとんど同じであって、冬山のような極地で使用するカメラはコンパクトタイプであれ、一眼であれ、値段の高価なものが堅牢性と気密性に優れており、中位から高位の機種を選んでおけば間違いないということの結論に達しております。

 

最後に、冒頭で書いたAKB48新聞についてですが、大体のコンビニの店頭で購入することができます。山にばかり登られていると世の中のことに疎くなりがちでしょうから皆さんも是非読んでみてはいかがでしょうか、山岳会に在籍しておられる年配の方々や大御所の皆様などには特にお勧めしたいと思います。

ただ、人によりますが買うときかなり恥ずかしいかもしれません…。

私の場合は買うときに他の新聞を3部くらい一緒に買うようにしており、他の新聞にAKB48新聞を紛れ込ませて何気なく涼しい顔で買うようにしております。試行錯誤のうえ思いついた購入方法です。一緒に買った他の新聞は用がないので、もったいないのですが、読まずに破棄するか誰かに差し上げたりしています。

 

最初は「いやー、子供に頼まれましてねえ」とか「友達がファンなんですよねー、馬鹿なやつでしょ」などと聞かれてもいないのに説明しながら買っておりましたが、あまり有効な手段とは言えないようでした。

あと他に考えられることは、例えばコンビニにワカンを履いてAKB48新聞を買いに行けば、今どき珍しいので皆さんそちらに気がとられてAKB48新聞に気が付かずにレジを済ませることができる可能性があり、恥ずかしい思いをしないで済むかもしれないですね。

 

またしても、今度の休日は荒れ模様の予報です。晴耕雨読というわけではないのですが、それに新聞から影響を受けたのでもなく、純粋に社会勉強のためAKBに会いに行ってこようかなーなんて考えています、私の自慢のカメラでも持ってね。

それからうちの山岳会の皆々様方、特に年配の方々を誘ってみようかと思案しているところであります。いかがなものでしょう?