令和3年9月19日~20日の写真


令和3年10月9日~10日の写真



門内小屋の管理人

令和3年9月19日~20日、10月9日~10日

 

今年もまた登山盛期の頃に各地で山の遭難事故が相次いで発生し、ヤフーニュースでも大きく取り上げられていました。

山での遭難事故となると一応一通り目を通すくらいはしておりますが、コメント欄をちらりと除くと遭難の原因は様々な要因が挙げられていて、とりわけ道迷い遭難と思しきものについては「GPSを持っていなかったから」あるいは「軌跡をダウンロードしていないから」との理由が書かれているようなコメントも多く見られ、私としては「おやおや」と思いました。

なかなか時間が無いのでヤフーの記事にコメントすることはほとんどないのですが、山ではあまり人と接する機会が無い私は世間一般的な動向の確認をしてみたいといった考えで、こんなコメントを入れてみました。

「私は某山小屋の管理人をしています、最近の登山客は紙の地図を持ち歩かない方が多く居られるようで、GPSやスマホを駆使することは悪いこととは言いませんが、まずは紙の地図を見て、山をよく見ることから山歩きは始まるんです。」といったような内容のことから書き込み、それが遭難の原因の一端になっているのではないか云々かくかくしかじか・・・、そんなコメントを入れてみました。

反応はというと、親指を立てるが8割で親指を下げるが2割の程度で、意外と賛成の方が多かったです、また1件だけですが返信コメントがあり「昔の山小屋の親父は頑固親父で怖そうに見えるのだが、でも登山者の事をよく考えてくれている本当は優しい人が多い、地図の勉強をしなければ」といった意見が寄せられていて、少し嬉しくなりました、ただ私は頑固な山小屋の親父ではありませんが・・・。

また、私自身も人との会話の中で「ヤマップから軌跡をダウンロードしてきたんだから、偉いでしょ」、あるいは「ちゃんとGPSに軌跡を落としてきたよ」なんて話を聞いたことがあります。

吉も悪しきも道具の発達により紙地図の必要性が薄れてきている昨今のようですが、確かにGPSやスマホは非常に便利で決して否定するつもりはありませんが、画面を見ながらただ単に点線だけを追うようなことでは山の歩き方としては間違った歩き方になるでしょう、紙地図を見ると必然的に山を見て、自然と地形を確認しながら歩くようになります、地形を確認して歩くようになるのだからいつの間にか自分でも知らず知らずのうちに山のことが詳しくなっていきます。

GPSやスマホはお守りといった使い方がよかろうと私は思うのですが、古臭い考えでしょうかね?と、まあいきなり偉そうなことを書いてしまいすいません、そんな私ですが飯豊に登るときは地図を持ち歩かなくなってしまいました、何度も歩いているので頭の中に地図がインプットされているからいちいち持ち歩くのが面倒といった理由からです、しかし慣れとは恐ろしいと言いますし、バカにせず私も持ち歩かなくてはとこれを書きながら今思いました・・・、まったく人のことを言えませんね。

そんな時代の流れとともに世の中も移り変わり、飯豊の客相も刻一刻と変化を始めているようです。

今年もコロナの影響で管理人の常駐といったことができずにおりましたが、代わる代わる管理人が入り、常駐とまではいきませんが、それに近い日数で管理人さんが入っておられ、私もその中の一員として混ぜていただきました。

 

令和3年9月19日~20日

本来は18日から管理人に入る予定でしたが、台風通過のため一日遅れで入りました。

どういうわけか今年は私が入る予定に合わせるように台風がやって来ます、7月にも管理人で入る予定がありましたが台風で中止になってしまいました。

今回も台風のせいで一泊二日での管理人業務となりましたが、いつも世話になっているという理由で門内小屋の掃除をかってでてくれる雪野さんが管理人助手を兼務ということで同行してくれました。

いつものように飯豊山荘から梶川尾根を登りますが駐車場がほぼ満杯に近い状態で驚きます、飯豊は最近よく雑誌等に掲載されるようになり脚光を浴びつつあるようで、そんな効果からなのでしょうか?この広い駐車場が満杯になることなんて今までは山開きの時くらいしかなかったのに。

駐車場のナンバーを見てもほとんど県外から来られている方のようで、去年は関東圏、特に東京から来たなんていう登山者は、私はもとより他の登山客にも敬遠され、皆さんできるだけ避けていたように思えましたが、今年はそんなことがなく関東圏のお客様でも歓迎されるようになりました、この駐車場を見るととりあえず平和な日々が少しずつ戻りかけてきているようです。

昨日までの雨が嘘のように晴れわたった梶川尾根は駐車場のわりに登っている人が少なく、おそらく多くの方はダイグラ尾根を登っているものと思われます。

ダイグラ尾根は厳しい尾根ということで、そこに挑戦してみたいという人がたくさんおられるようですし、それに飯豊山荘を起点とした周回縦走が可能となります。

何度も来ることができない遠方の方にとって縦走するには便利な尾根ということになります。

以前は厳しいということで歩く人がほとんどいなくて廃道寸前にまでなった尾根なのに、これもまた時代の流れなのでしょうね。

ダイグラ尾根は確かに厳しいですが、梶川尾根もかなりキツイと思います、ダイグラ尾根の宝珠山あたりの歩きにくい登り下りが梶川尾根には無い程度で、私的にはそんなに大差がないように思うのですが、どうでしょう?

とにかく門内小屋に到着してからたくさんの仕事が待っているので疲れるわけにはいきません、昼くらいに着けばいいでしょうから、ゆっくりとキノコなどを探しながら登りました。

台風直後ということで今日は空気が澄んでいます、梶川峰までくるとダイナミックな飯豊の稜線が今日は一段と雄大に見えます。

気温が上がると共に稜線にはガスが発生しますが、湿度も低いようで今日のガスは少なめの発生でした。

門内小屋が見えるところまで来るとテン場にはすでに2張りのテントが見えます。

コロナ以降に急増したテント泊、今年も相変わらず小屋泊よりテント泊の方が多く、元々飯豊は避難小屋しかないので本来の使い方としては山で何か災難等に遭遇した人が避難するための小屋であり、基本はテントというのが正解であろうと思います。

それほど広くないテントサイト、「もしテン場がいっぱいになったら強制的に小屋に泊まってもらうしかいないな」なんてことを考えながら我々も無事に到着、休む暇もなく管理棟を開け、登山客を迎え入れる準備を始めます。

しかしその前に自分たちの水を汲みに行かなければなりません、水場へ行くためにテン場を通るといつの間にかテントが増えていて、私はその一つ一つに声を掛けます、「管理人です、お疲れ様でした、後で代金を徴収しにまいりますのでお願いします」、そう話しかけると管理人が来たことで安心したのか全員がそれぞれめいめいに話しかけてきます。

さっさと水汲みに行きたいのですが無視するわけにもいきませんし、慣れないひきつった笑顔を作って対応して長々とテン場で足止めをくらい、結局自分でも調子に乗って山の話に花を咲かせてしまいました。

今日と明日は天気が良いので他の山小屋と比べて宿泊者が比較的少なめの門内小屋であるものの、小屋泊りの人も結構いて多くの登山者で賑わいました。

9月の第3週は例年だと紅葉は始まっていませんが、今年はすでにかなり色づいていて、今日訪れた方は運が良かったと思います。

夕方、門内小屋の周辺は落日の景色を一目見ようと宿泊者のほぼ全員が集い、歓喜の声に包まれます。

景色を見ながら感激している登山者の姿を見ると、私としてもとても嬉しくなります。

以前にも書きましたが、数ある飯豊の避難小屋の中でも門内小屋の景色は随一であろうと思います。

皆さんそんな景色を心に焼き付けるべく、もう陽が落ちようというのに寝床に帰らず、いつまでも感動に浸っておりました。

そして、あたりは夕闇に包まれるとようやく登山者はそれぞれのテントや小屋へと戻りました、去年あたりから宴会をする人が激減しましたが、それでも今年は宴会の声がちらほら聞こえてきます、遅くまでの大宴会はダメですが、今日一日の出来事を話し合ったり、山談議に花を咲かせるなど、苦労して登って来た者同士が酒を酌み交わすことはごく自然なことであろうと思います、今晩は飯豊の山小屋の風物詩が僅かではありましたが垣間見えた夜となりました。

そして翌日、多くの登山者で行きかう門内小屋を最後の掃除をしてあとにしました。

天気が良いので下山は丸森尾根まで足を延ばしました、例年にない早い紅葉に目を奪われながら「今年は雪が早そうだ」なんてことを考えながら無事に管理人業務を終えました。

 

10月9日~10日

物凄くマイナーな山ですが、奥三面の堀切峰というところに今週末は登ろうと考えていたところ、飯豊胎内の会の会長さんから「今度の土日は門内に入れねえかね?」といった問い合わせがきました。

人付き合いが薄い私として、たまにそんな連絡がきた時くらい引き受けなければならないだろうと思い、この週末は急遽門内小屋へ管理人をしに行くことになりました。

黙って行くのも悪いと思いダメもとで雪野さんに声を掛けたところ、再び同行してくれることとなりました、本当に彼女は門内小屋が大好きなようです。

毎回いつも私の助手ばかりですが、正規の管理人としてスカウトしてもいいくらいのように思います。

そんな彼女と再び梶川尾根を登りますが、雪野さんはコロナワクチン接種の影響で体調を崩しており、ようやく回復に向かい始めたとのことで今回は病み上がりの状態で門内小屋に向かっておりました。

そんなことで今回もまたゆっくりキノコを探しながら登ります。

登山道わきにはクリタケが見られますが私はクリタケがあまり好きではないので採取はしません。

クリタケが嫌いというと結構不思議がられます、煮物にすると出てくる黄色い出汁がコクがあって美味しいと言う人もおられますが、私的にはそうでもない、それよりもあの噛んだ時に歯にまとわりつくような感触がどうも好きになれません、そんなことで今回も手ぶらで門内小屋へと到着しました。

未だ紅葉の余韻が多く残る飯豊の稜線は目を楽しませるには十分です。

今年は早くから紅葉が始まって台風が少なかったからなのか、いつまでも紅葉を楽しむことができたようです。

それにしても今日に限って台風は来ませんでしたが、どういうわけか7月と9月に私が管理人として入る日に、その数少なかった台風がやってきており、なんとも今年はついてなかった年でした。

秋の晴天に恵まれたこの日、門内小屋を通過して梅花皮小屋に泊まると言う登山者は多くおられましたが、最終的に今日の門内宿泊者はテントが0人で小屋泊りは僅か2名でした、天気が良いと皆さん梅花皮小屋まで行ってしまいます、私としては業務が非常に簡単でいいのですが、それにしても寂しいように思います、「もうちょっと泊まってほしかったなー」。

梅花皮小屋に泊まる方でも門内通過時にトイレだけは使っていくのに「梅花皮小屋まで我慢できないんかい!ぶつぶつ・・・」なんてことを思ったりして・・・、それにしてもトイレ掃除が大変だ!

今宵、宿泊してくれた人は二人だけでしたが、5人分くらい喋る賑やかな人だったので、それだけがせめてもの救いでした。

翌日、梅花皮小屋に宿泊された人たちが戻ってきて、そしてまた門内小屋のトイレを借りていくたびに「昨日は宿泊者が少なくて門内はゆったり寝ることができたよ」なんてことを教えると「えー、こっちに泊まればよかった!」と皆さん後悔しておりました。

とにもかくにも一通りトイレ掃除を無事に終えて帰り支度をしていると一人の登山者がやってきて「あんたが何でも知ってる大先生か?これから本山まで行って泊まりたいんだが明日の天気はどうなのか、この後どうしたらいいか相談にのってほしい」と言ってきました、なんでも頼母木小屋の管理人から「門内小屋の管理人は何でも知っている大先生だから、そこで相談してみなさい」と言われたそうで、「はあ?なんだそりゃ、こりゃまた変なこと吹き込まれてきたな」と思いました、私が大先生な訳無いのですが仕方がない、ここは一介の登山者の相談役をかってでるはめとなりました。

天気はこの後下り坂に向かい、明日は荒れ模様の予報となっているので残念ですがお勧めはできません、話をいろいろ聞いていると住まいは比較的地元に近い方のようでしたので、無理して景色の見えない中を歩くより天気の良い時に来た方が良いわけですし、それに悪天時は事故も起こりやすいですから「また来年に機会を見て来た方がいいですよ」と下山を促すと、素直に帰られて行きました。

来週は飯豊の稜線上の小屋すべてが小屋終いで、いよいよ冬を待つだけとなります、我々もまだ紅葉冷めやらぬ稜線の秋を名残惜しむように門内小屋を出発しました。

穏やかに晴れ、澄んだ空気の中、下山は再び丸森尾根を使いました。

地神北峰まで来ると「これでしばらく飯豊とはお別れだね、また来年」そう心の中で呟いて今年の管理人業務を無事に終えることができました。

これから飯豊は長い冬に鎖されます、天気と都合が良ければ雪を踏みに来るかもしれませんがこれからの気象条件を考えると気軽に来れる日があとどのくらいあるものか、それに堀切峰をはじめとした晩秋や初冬の頃に登りたい山が多く有りますので、飯豊には今年はあと来ないかな・・・。

来年は春先から修理のため門内小屋に来ることがほぼ確定しております、仕事でまた嫌というほど来なくてはいけませんし、管理人としてもまた来ることになると思います。

 

私の地元に聳える日本で一番素晴らしい山、そんな飯豊を次回訪れるのは来年の楽しみにとっておいた方が良さそうだと思い、今は雪化粧を纏った飯豊の山並みを眺めながら「早く春が来てほしい」と願う日々を送っております。