朝日連峰 

 

日暮沢~大朝日岳~竜門山~日暮沢

 

平成28年4月23日~24日

 

 

 

去年の暮れにもらったボーナスが思いがけず多かったものですから念願だったデジタル一眼レフカメラを購入しました。

 

値段は私の乗っているポンコツ車よりも高く、おそらくこのカメラは私の財産の中で一番高額な物となったのではないでしょうか。

 

私としてはそんな高額なカメラはもったいなくてとても使うわけにはいかず、家宝として家の奥にしまっておかなければなりません。

 

時々はカメラを出してはみるのですが、当然カメラを外に持ち出すようなことはせず、家の中でのみ子供がおもちゃを与えられたようにカメラをいじくりまわしておりました。

 

しかしそれも最初だけ、時間がたつにつれカメラは家の片隅に置かれがちになり、やがては防湿ケースにすっかり収まり保管されたままになっておりました。

 

 

 

そういえば私は登山道具にしてもそうなのですが、気に入った物を見つけると二つか三つも購入してそれはタンスの奥にまるで家宝のように仕舞っておいたままずっと使いません。

 

やがて時は過ぎ、タンスの奥に仕舞っていたことなどすっかり忘れ去られていたその家宝は何かのひょうしで発掘されるのですが、それは場合によっては経年劣化で実践では使えなくなってしまっているというようなこともありました。

 

 

 

私は登山道具をとても大事にしますし、それは人にもよく褒められます。

 

登山道具はヘタをすれば命にさえかかわってくるほど重要な物であるからこそ大事にして、一度使ったら手入れも十分におこないます。

 

しかし購入して使いもせず仕舞っておくといった話をすると、人によっては目くじらを立てて怒られる場合があります。

 

それにしてもこの作文を書きながら「あのお気に入りのザックは10年以上使ってない」だとか「色が綺麗で購入した一度も使用していないスパッツはゴムが伸びていないだろうか」とか、はたまた「リラックマの水筒はまだ値札が付いたままだ」など、他にも値札が付いてパッケージに入ったまま使うことなく眠っている様々な道具が脳裏に浮かんでまいります。

 

こんなことを人に話すとまた怒られそうなので、とても言えたことではありませんが・・・。

 

 

 

再びカメラの話に戻ります。

 

ボーナスで買ったカメラは高級な分、大きくて重いものですから、厳しい山行では持っていきにくく、ましてや藪山山行の時は絶対に持って行けませんし、雪や雨にあたりそうな山行にも持っていくわけにはいきません。

 

だからといって家宝にしておくのももったいないという気持ちが徐々に芽生えてくるようになり、そこで残雪期が終わって普通の登山道を歩くような山行をするようになった頃に使おうと思っていて、先日の門内小屋修理の視察のために飯豊を訪れた時に試し撮影ということでようやく日の目を見ることができました。

 

そして今回の朝日連峰山行で本格デビューをする運びとなりました。

 

 

 

この冬から正月山行を通いなれた飯豊の西俣尾根から朝日連峰の日暮沢ルートへと切り替えました、新たなる挑戦です。

 

しかし厳冬期の朝日連峰は想像以上に厳しいもので、悪戦苦闘の末に願いは無情にも打ち砕かれ、私の想いは日暮沢の峰々に置いてきたまま雪解けの季節を迎えました。

 

 

 

もともと私自身この日暮沢からのコースは朝日連峰の数あるコースの中でも比較的手軽に登れるということもあって一番好きなコースでした。

 

ところが日暮沢は数年前から土砂崩れがあって入山が難しくなっており、それ以降は私自身も足が遠のいておりました。

 

残雪期としては随分前の3月に登ったこともあったのですが、今回は正月山行の偵察というつもりで訪れたので、今度は正月を意識しながら歩いてみました。

 

 

 

 

 

大井沢に来ると山の裾野には水芭蕉の群生が見られ、山の木々も新緑に染まり始め、ようやく訪れた遅い春の原風景がそこらかしこに見られるようになっております。

 

この冬にお世話になった民宿おおはらに顔を出そうと思いましたが、主人の姿は見えるものの多くの客で賑わう傍ら忙しそうにしていたので、私はそっとその場を通り過ぎていきました。

 

長く雪に鎖されていて静かにじっと耐え、雪の季節を乗り越えた大井沢は待ちわびた春に誘われるように活気を取り戻しているようです。

 

 

 

車はアメリカ橋まで乗り入れることができたのでこれには助かりました。

 

例年ですと根子集落までしか車が入れないので今年がいかに少雪だったかがわかります。

 

アメリカ橋からも林道上にはほとんど雪が見られず大半は地面の上を歩いて日暮沢小屋へと至ることができました。

 

 

 

日暮沢小屋から先、しばらく林道が続きますが、雪があると通過に困難な箇所が現れ、結構な苦労をして尾根の末端へと到着しました。

 

その後も長い登りと雪上歩行に苦戦しながら小朝日岳に到着しました。

 

盛期の頃に訪れたときはまったく気が付かないのですが、ひとたび時期を外れるとそこには深い自然があり、朝日連峰の厳しさを実感することができます。

 

 

 

登山ブームによって入山者が増加し、それに伴って登山道や山小屋が整備されるようになると自然の厳しさが薄れてしまい、そんな俗化した山を目の当たりにしたときはどこかいたたまれない気持ちになりますが、人の手が離れる季節には再び山の深い自然は蘇り、自然がもたらす厳しさや脅威、そして神秘さを湛えた素晴らしさは今も昔も何一つ変わっていないことに気が付き、とても嬉しく感じます。

 

小朝日岳からの下りもかなり厳しいものがありました、残雪期であればこそ何とか進むことができますが、これが厳冬期であれば無事に通過することができるのだろうか?

 

一抹の不安を抱きながら今日のところは無事に大朝日小屋へと到着することが出来ました。

 

残雪期の朝日連峰はなかなか苦労の連続でしたが何とここまで8時間、いつもの倍以上もかかってしまいました。

 

残雪期でもこの調子なのですから正月ともなると果たしてどうなることやら・・・。

 

 

 

小屋周辺は強風が吹き荒れ、濃い霧に包まれております。

 

天気予報は明日にかけて回復に向かうとのことで無理にこれから行動する必要もありません。

 

ちょっと早めではありましたが大朝日小屋で一晩を過ごすことにしました。

 

 

 

翌日、まだ少し雲が残っていましたが朝日連峰の峰々はすっかり見渡せるようになっており、朝食を食べている間にも見る見るうちに青空が広がっていきます。

 

「今日はゆっくりと稜線歩きを楽しみながら高級カメラも活躍することが出来そうだ」

 

朝日連峰に降り積もった雪は峰々に見事な残雪模様を描き出し、素晴らしい青空の下で思う存分に写真を撮りながら竜門山へと到着しました。

 

こんな日は下山するのが惜しくなります、私は再び西朝日岳へ戻り稜線をふらふらと歩き、昼に再び竜門山へと戻ってきました。

 

そして順調に日暮沢へと無事に下山することができました。

 

林道は今日の暖かさで雪がすっかり解け、昨日は車の乗り入れがアメリカ橋までだったのが今日は最奥まで乗り入れることができるようになっておりました。

 

 

 

帰る頃に食料は減っていき、すっかり軽くなった荷物とは反比例するように撮影データーが重くなったカメラをザックにしのばせて無事に帰途につくことができました。

 

 

 

それにしてもやはり高級カメラは重かったです、登山には高級カメラは不向きなのかもしれません。

 

そもそも昔からカメラは値段と性能、大きさや重量が比例します。

 

高額になればなるほど大きくなり重量も嵩むというわけです。

 

これは現在の技術としてカメラは大型センサーを搭載し堅牢性と気密性を強化するとどうしても大きくなり重量も増してしまうとのことです。

 

ただ重量や大きさを考慮してもあの大型センサーの色彩はかなり魅力的です。

 

確かにいろいろなカメラで写真を撮り比べても大型センサーが搭載されたカメラで撮影したものは一目見ても色彩が鮮やかで豊かだということが分かります。

 

ただし私の場合は撮影技術を磨かなければなりませんが・・・。

 

 

 

 

 

帰り道の途中で私は再び民宿おおはらに立ち寄ろうとしましたが宿泊者のものと思われる県外ナンバーの車が数台ほど停まっていて相変わらず宿は盛況のようでした。

 

民宿おおはらの主人はこの付近の山に精通していて、面白い山の話をたくさんしてくれます。

 

きっとまたお客さんにそんな山の話でも聞かせてくれているのでしょう。

 

「また次回来た時にでも顔をだそう」そう思って私はそっと大井沢をあとにしました。