6月13日~14日
朝日連峰半縦走
10年ほど前のことになりますが二王子岳の山開きに地元の山岳会ということで市役所から協力要請があり、そのお手伝いに参加していたときのことでした。
登山口にある二王子神社では安全祈願祭が催され、多くの登山者が集まる中、我々下越山岳会の皆さんにピンク色の帽子が手渡され、横一列に並ばせられて「登山の途中で具合が悪くなったり、それ以外でも何かあった場合はこのピンクの帽子を被った人に申し出てください」とアナウンスされ、山開き登山がいっせいに始まりました。
「それにしてもピンクの帽子はないよなー」
尚、当時の山開き時には入山者に二王子岳特性の手ぬぐいが配られておりました、今ではこの手ぬぐいは大変な貴重品となっております。
我々下越山岳会は先頭集団、中間、最後尾の3班に別れて一般登山者に紛れて山頂を目指します。
山開きとあって毎年多くの登山者が訪れますが、この時ばかりはいつも以上に様々な登山者がこの山開きに参加されるようです。
私は最後尾の班で見るからに山登りが不慣れなお母さんたちの後方を歩いておりました。
案の定、登り始めてからまだ三分の一も進まないうちにお母さんたちは口々に「ダメ、もう疲れた、帰る」などと言った言葉を発するようになってきました。
そんな状況の中、一番先頭を歩いていたお母さんが「うわー!ぎゃああああー!」と突然叫び声を上げました。
「何だ!何事だ!」私は驚き慌てふためきながら駆け寄るとお母さんは「シラネアオイが咲いているー!うわー!きれいー!」と叫びました。
すると後続のお母さんたちも次々に「ぎゃあー!きれい!」と大きな声を出して喜びを爆発させております。
確かに僅か一輪のシラネアオイが藪の中に咲いておりますが、そんなに綺麗なものだろうか?
「来てよかったね!」「これが見たくて山に登ってるのよ!」一輪のシラネアオイを見たお母さんたちは歓喜の渦に包まれております。
一輪の花によりお祭り騒ぎとなったお母さんたちは満足したのかそこで下山していきました。
一輪の花を見ただけであれだけはしゃげるのだからお母さんたちは凄い感性があるものだと思い、なんだか羨ましくなってしまいました。
いや、そのお母さんたちだけではなく他の山でも花を見つけるたびに凄まじい剣幕で叫びながら咲いている花に一喜一憂し、なかなか前に進まず渋滞を作っているお母さんたち御一行を見かける時がたびたびあります。
山の楽しみ方は様々ですが、私などシラネアオイやニッコウキスゲなど山で見るのであれば胎内のチューリップ園や五十公野公園のあやめ園に行った方がずっと綺麗だと思うのですが、どうでしょう?
ましてや以前にも書きましたがハクサンイチゲの群落などは公園の片隅に咲いているひのつめ草、いわゆるクローバーの白い花と区別がつかないのは私だけでしょうか?
うーん、でも確かにあれだけ感性に豊かさを持って山に登り、感動できるということは素晴らしいことであり花にまったく無頓着な私の方がおかしいのかもしれません。
先日、下越山岳会の若い女子を連れて飯豊のエブリ差岳に行ったときも大石山付近に咲き乱れるハクサンイチゲを見て彼女たちは大喜びしておりました。
そんな姿を見て私は「連れてきて良かった」と思いました。
さて今回はようやく雪が解けて車が入れるようになったばかりの朝日連峰を訪れてきたのですが、朝日連峰の場合は山が奥深く6月に入ってもまだ盛期とは言い難いような自然環境を呈しており、特に北部は訪れる人が少なくとても静かで、朝日連峰の原始性を感じることができ、しかも6月の朝日連峰は意外と花が多くて、7月よりも多く花が群落しているように思います。もしかすると年間で一番花の咲く時期は6月なのではないかと感じます。
あまり言いたくないのですが、6月の朝日連峰は穴場の時期であろうかと思っています。
あの二王子の山開きで花を見てはしゃいでいるお母さんたちや下越の若い女子などを連れてきたらきっと喜ぶんだろうになあ、いや下越の若くない女子も連れて来たらいいだろうな、なんて思いながら静かな朝日連峰を楽しんできました。
今回の入山口は泡滝ダムからです。
まずは神秘的な大鳥池を目指しますが、ところどころ雪渓が残っていて歩きにくかったです。
空は寒気の影響が残り雨こそ止んでおりますが黒い雲が立ち込めテンションが上がりません。
いつもは1時間半もあれば大鳥池に着くのですが、この日は2時間以上かかって大鳥池に到着しました。
テンションの低さということの影響は確かにあったでしょうし、歩きにくい雪渓もありました。
でもやはり体力も低下しているのかもしれません、自分はまだ若いつもりでいるのですが「やはり年には勝てないのかな」なんて考え、少し寂しくなりながらとぼとぼと次の目標である以東岳へと向かいました。
三角峰を過ぎる頃には辺り一面黒い雲に覆われ、草も木も降り注ぐ黒い霧と同化し、視界は数メートル程度となり、そして無慈悲なまでに空は荒れ狂い、恐怖心を覚えるほどの強風が吹き荒れております。
オツボ峰あたりでもう限界です、私はたまらず雨具を着てしまいました。
登山道具をとても大事に扱う私は本来ならば雨具を濡らすのが嫌なので雨が降っている時は雨具を着用することはありません。
それが今回は我慢できずに着用してしまいました、それほど強く冷たいガスと風が吹いておりました。
以東岳山頂の視界は10mもなかったと思います、まったく景色の見えない中、ただ黙々と狐穴小屋へと向かいました。
狐穴小屋には午後1時30分頃着きました。
本来はここで管理人のあだっつぁんと晶子ちゃんと感動の再会を果たすのですが、今はまだ無人です。
行動を停止するにもまだ早い時間なので竜門まで行くことも考えましたが外は相変わらずの強風と寒さで雨具もこれ以上濡らしたくありません。
暇だけれどもやはり今日はおそらく貸切となる狐穴小屋に泊まることにしました。
それにしても寒い、寝袋に包まろうと思うのですが汗をかいているのでこのままでは寝袋が汚れてしまいます。
そこで私は誰もいないということもあって服を脱いでパンツ一枚になって寝袋に包まりました。
うとうとしていると時がたつのは早いもので、すでに夕刻が近づいているようです。
先ほどまで立ち込めていた黒い雲は消え、風もいくらかおさまっているようです。
寒気が抜けたのか気温も昼より少々高くなっているように思います。
私はカメラを持ってパンツ一丁のまま小屋のサンダルを履き外に出てみると日没までまだ少し間がありそうです。
どうせなら高いところまで行って夕陽の写真を撮ろうと考え、そのまま三方境を越え、北寒江山まで登りました。
パンツ一枚でもそれほど寒くはありません、そよそよと肌に触れる爽快な風は心地よさまでもたらしてくれます。
夕暮れ迫る北寒江山で赤く染まる以東岳を眺め写真を撮影し、ゆっくりと狐穴小屋に戻りました。
そういえばこの日は下越山岳会御一行様が障子ヶ岳に登って天狗小屋に泊まっています。
「天狗小屋に泊まるなら狐穴までくればいいのになあ、時間持て余すだろう」、ましてや障子ヶ岳など単なる通過点の山でしかなく「一泊ならせめて寒江山くらいまで行ったらいいのになあ」なんて考えました。
皆さん高齢化しており無理しなくなっているようです、それにしてもあまりにもハイキングの様な山登りばかりで寂しくなってしまいます。
私もいつかそうなるのだろうか?
今は私が皆さんの仲間に入れてもらうにはあまりにも場違いすぎる。
確かに一人は気楽で行動も自由にできる、そんなこともあって常に単独行をしているのですが、切磋琢磨しながら一緒に己を高めていけるような仲間がほしいと思うことも時にはあるわけです。
以前の精鋭はすっかりなりを潜め、若い人たちは軟弱化するか、あるいは流行り物に流された山登りをするスタイルの人たちばかりで、このことについては私なりに結構悩んだりしております。
まあ私程度の者が悩んでも仕方がないのですが・・・。
ああ、いけないいけない、他の人の山行を見下すようなことを考えたり、山行スタイルにケチをつけるのは私の心のどこかにおごりの気持ちがあるからでしょう。
謙虚にならなければ・・・。
それに、そもそも私の山の登り方や考え方が邪道なのかもしれません、現在は楽しい登山とか格好良い登山が主流となっていて、それが市民権を得ているというのが事実なのですから。
邪道という言葉は冒頭でも書きましたが山に咲く花々を見ても何も感じない私とリンクしてしまいます。
やはりあらゆる面で私のような山の登り方や考え方、感じ方はおかしいのでしょうか?
きっと明日は晴れるであろう朝日連峰の主稜線にワクワクしているにもかかわらず、今晩はあれこれとネガティブになりがちな一夜を、一人静かにパンツ一枚で過ごしながら狐穴小屋の夜は更けていきました。
朝、目覚めると意外と雲が多い。
出かける前に天気図と睨めっこをしておりましたが、思った通りそれほど今日は素晴らし晴天とはならないようです。
雲が多いながらも時折晴れ間があり、幾分静かになった稜線を南寒江山まで歩きました。
一応、服は着ています。
私は寒江山と南寒江山の間がこの朝日連峰の中で一番好きな場所です。
特に広々とした南寒江山の山頂は心が休まります。
そう言えば新潟県で総合的に一番難易度の高い山が寒江山となったそうですが、これは誰が考えたのでしょう、そんなわけないです。
そして昨日見ることができなかった6月の景色を思う存分楽しみながら以東岳へと戻ります。
徐々に穏やかに晴れゆく以東岳、暑くもなく寒くもない絶好の陽気にお昼寝がしたくなるのを我慢して大鳥池へと下りました。
大鳥池には数人の釣り人がいます、歩きにくかった雪渓は彼らに踏まれて歩きやすくなっております。
私は大鳥池から体力の低下と言う厳しい現実を振り払うように走りました、そしてしばらく進むとトレランらしき人が目の前にいます。
トレランは流行りの登山スタイルであり邪道な私にとっては嫌いな山行スタイルです
トレランと違い私は大きなザックを背負っています、しかも服装は¥780円の体操ズボンと百円ショップのTシャツです。
これはしめたと思い彼を追い越します、そして追いすがろうとする彼を引き離しあっという間に泡滝ダムへと着きました。
来るときは2時間以上かかった道のりも帰りは1時間ちょっとしかかからず、これで少しは気が晴れたような気がします。
山は時間を競う物ではない、ましてや早く歩いて自分の衰えをごまかし、それに満足するなんて、私は本当に邪道な登山者のようです。
でもパンツ一丁の件については正当ではないかと思っております。