晩秋の大朝日岳(正月の偵察山行)

 

11月22日

 

 

 

 

 

冷たい風が吹き荒れ、季節はようやく秋から冬に移ろうとしているようです。

 

会社駐車場の片隅には黄色い花が木枯らしを避けるように群生しております。

 

私は骨董市で見つけた九谷焼の一輪挿しにその黄色い花を挿して会社の応接テーブルに飾りました。

 

 

 

今年は11月に入っても暖かい日が続いており、この冬は暖冬になると巷では言われているようです。

 

奥胎内のカメムシはまったく姿が見えないようですが奥三面ではやや少なめながら、まったくいなかった去年と比べるとうっとおしい程度に飛来しておりました。

 

カメムシあるいはカマキリの卵の高さなど自然界の観点からその年の積雪を予測できると言いますが、これもまたいろいろな意見があるようで確実かどうかは定かではありません。

 

 

 

実際、今年の冬はどうなるのでしょうか?

 

毎日、空を見ながら、山を見ながら多くのことを勘案する日々が続いております。

 

 

 

正月の北股岳に登頂したら、次の正月は朝日連峰の主峰である大朝日岳に行くことは何年も前から決めていたことです。

 

厳冬期の北股岳登頂に2度成功したことにより、ようやく西俣尾根からの挑戦は私の中で卒業する運びとなりました。

 

そしていよいよ今年から新たなる挑戦が幕を開けることになりました。

 

朝日連峰には何度も訪れているとは言え、厳冬期は初めてです。

 

随分前から毎年春先や初冬の頃に偵察に訪れてみてはいるものの、なかなか思うような偵察ができずにおりました。

 

特に今年の場合は天気に恵まれない年で、秋に入ってなかなか休日と晴れ間がかみ合わないでおりました。

 

大朝日岳には初冬の頃に偵察に行きたいと思っていたのですが、そんな折11月22日は久しぶりに晴れマークとなっていて、この日はチャンスとばかり大朝日岳へと向かってみることにしました。

 

今回の偵察登山は古寺鉱泉から登りましたが、実際のところ本番は日暮沢コースからが濃厚です。

 

その時の積雪状況や気象など様々な条件を考えて本番のルートは決めるつもりでおります。

 

 

 

古寺鉱泉口の駐車場には前日の夜に到着しました。

 

いつもこの時期に朝日連峰を訪れる時は道路の積雪や路面の凍結に四苦八苦して、途中で車を乗り捨てて歩いていくなどして、ようやく登山口まで辿り着く有様なのに、今年の場合はすんなりと普通に古寺鉱泉駐車場に着くことができました。

 

駐車場には数台の車が停まっており、何台か関東方面ナンバーの車までいます、よくこの時期に来たものだ!

 

11月下旬にこんなにスムーズに登山口まで来たのは初めてで、随分と異常なことであります。

 

 

 

翌朝、夜が明けはじめると停まっていた車の人たちが次から次へと登山準備を始めているようです。

 

私はいつものように寝坊し、ゆっくり起きていつものように歩きはじめは最後になりました。

 

歩き始めるとすぐに古寺鉱泉の建物が見えてきます。

 

古寺鉱泉はひなびた秘湯であり、いつか宿泊してみたいと思っています。

 

そんな古寺鉱泉を横目に雪の無い登山道をぐんぐんと登って行きました。

 

天気は上々、すっかりと葉を落としたブナの原生林から淡く木漏れ日が差し込み、落ち葉を踏みしめながら意気揚々と大朝日岳へと急ぎました。

 

 

 

雪の無い尾根はどこまで続くのだろうか?

 

途中、葉の落ちた木々の間から古寺山を望むも雪はまったく見えません。

 

やがて古寺山まで来ると目の前には黒々とした朝日連峰の主稜線が飛び込んできました。

 

主峰の大朝日岳でさえ雪は見えず、冬山というよりまだ晩秋といった風情です。

 

せっかく新雪を踏みに来たのにあろうことかこの時期でこれでは少しがっかりです。

 

それでもせっかく来たのだからと気を取り直して大朝日岳に無事登頂。

 

山頂は雪こそないもののあまりにも寒くて長時間留まることはできませんでした。

 

早々に山頂を後にしましたが、時間が早かったので西朝日岳まで行って往路を戻りました。

 

すっかり土の上を歩いた通常登山に拍子抜けして下山、そして月山志津温泉に立ち寄って家路に向かいました。

 

 

 

翌日、この日を境に日本列島を寒波が襲い、山々は急激に白くなり始めておりました。

 

巷では車のタイヤ交換が頻繁に行われているようでした、私は仕事で道路の消雪パイプ点検作業を行っており、街も人も寒波に急かされる様に一気に冬支度を始めております。

 

木枯らしが吹きすさぶ中、消雪パイプ点検の手を休めふと山の方を見ると雲の切れ間から白くなった二王子岳とその奥にさらに真っ白くなった飯豊連峰が見え隠れしています。

 

白くなった山を見るとあの恐怖がまた湧いてくると同時に気が引き締まる思いになります。

 

「凄く怖いのだが頑張ろう!」冬にさしかかった峰々を仰ぎながら、私の頭の中はすでに厳冬期の朝日連峰のことでいっぱいになっておりました。

 

 

 

会社では事務員が「誰だ!一輪挿しにブタクサを生けたのは!?」と怒っています。

 

駐車場の片隅に咲いていた黄色い花はどうやらブタクサだったようです。

 

ブタクサはアレルギーを起こす人がいて、嫌われ物の代表の様な花です。

 

厳冬期の朝日連峰はとても怖いのですが、ブタクサに激怒している事務員はもっと怖いと思いました。

 

 

 

今回は偵察と新雪を踏もうという魂胆で訪れた山行でありましたが、一足違いで晩秋の朝日連峰登山となってしまいました。

 

偵察や新雪といった目標は叶わず終いとなりましたが、冬の長い眠りに着き、雪を待つだけとなった朝日連峰の峰々は、晩秋の淡い儚さが漂い、そしてそれに相反するように自然の驚異が荒れ狂う前の不気味な静けさを湛え、すべてが混ざり合って恐ろしい狂気を内包しているように感じました。

 

やがて冬の猛威が訪れる大朝日岳に私は「正月に来るから待っていろよ」と語りかけて下山してきました。