平成27年4月19日

 

小揚から鷲ヶ巣山

 

 

 

新潟県関川村の女川山塊から山形県小国町の県境尾根を経て新潟県旧朝日村奥三面までの区間には二つの烏帽子岩があります。

 

この付近の尾根は奇怪な形状をしていたり、強烈に痩せた岩尾根が連続していたりと、ただでさえ通過には大変な困難を強いられる中でも最大の難所と思われるところがこの二ヶ所に烏帽子岩であろうかと思います。

 

 

 

私はこの山域がとても好きで怖がり恐れながらも楽しく遊びに行っている次第で、そのことについてはこのホームページの中でも再三触れているところでもあります。

 

 

 

このホームページの平成26年度の中で山形県小国町の入折戸集落から鷹ノ巣山に登り北側に聳える烏帽子岩まで行った記録を掲載しました。

 

その時の山行を記憶を思い起こしてみると、北の烏帽子岩はオーバーハング状となっており、しかも手で触ると表面がボロボロと剥がれ落ちてしまいます。

 

右側は断崖絶壁となっており左側には回り込める回廊がありましたがそれも沢筋にぶちあたり、そこから先は行き止まりとなっておりました。

 

私は何とか越えられないものか右往左往してみたものの、結局この日は烏帽子岩を越えることができずにすごすごと下山してきました。

 

 

 

あの烏帽子岩を越えられなかったことは非常に残念であり、私はあの日以来なんとか通過できないものかずっと考えておりました。

 

鷹ノ巣山方向からではとても越えられないのだが、それでは反対方向からならどうなのか、ロープなどを使って通過できないものか、いつか行ってみようと思っていました。

 

 

 

この烏帽子岩の反対側というと鷲ヶ巣山が聳えております。

 

鷹ノ巣山側からの通過は無理だったので今度は鷲ヶ巣山側から向かうことを考えました、距離的に日帰りでは難しそうです。

 

 

 

今回はまずその下見として日帰りで行けるところまで行ってみようという計画です。

 

ところが烏帽子岩以前に鷲ヶ巣山に登ることが大変です。

 

鷲ヶ巣山は登山道が整備されておりますが登り下りが非常に激しく標高の割にかなりの労力を要する山で、この付近では屈指の厳しい山となっております。

 

 

 

鷲ヶ巣山を簡単に登れないものか、いろいろ思案してみたところ小揚集落から鷲ヶ巣山頂に向かって明瞭な尾根が延びているではありませんか。

 

距離も比較的短く、登り下りもあまり多くはなさそうです。

 

「この尾根を登ってみよう!」

 

 

 

これは光兎山から頭布山へ向かうのに少しでも体力を温存するため厳しい光兎山にヨドソ尾根を使って登るといった発想と同じであり、こりゃナイスアイディアだなと我ながら思っておりました。

 

そんな折、何気なく中条の亀山さんの本を読んでいると私が計画していたルートとは尾根取付き点は違いますが途中からこの尾根を踏破されている記録が書かれておりました。

 

それによると以前この尾根は登拝路として使われていたそうで、しっかりとした踏み跡が残っているといった内容のことが書かれています。

 

 

 

こんなに明瞭な尾根ですから猟師道とか山菜取り道などはあるだろうと思っておりましたが、登拝路が昔あったということは「これは楽勝で鷲ヶ巣山に登れるだろう」と私はかなり楽観視しておりました。

 

 

 

この尾根にはどこから取付くにしても必ず小揚川を渡渉しなければなりません。

 

ここ数日はまるで梅雨空のように雨が降り続いたところに雪解け水が混入し、川はまるでメコン川のように泥濁り、その濁流には渡渉どころか近づくことさえ危険なほど増水しておりました。

 

そうこうするうちにようやく晴れ間が続き、増水した川の雪代は相変わらずですが、それでも雨水の流入がなくなることでやや減水の兆しが見えるようになりました。

 

 

 

私はこの時を見計らい登山道具と一緒に胴長靴を担いで小揚川に向かいました。

 

川を眺めると場所によって何とか渡れそうなところがあります。

 

そして予定していた渡渉点付近の川幅の広いところを選び小揚川を渡り終えました。

 

ちょうど渡り終える頃、胴長の中に水が浸入して一気に靴の中が水浸しになったではありませんか。

 

どうやら胴長の生地の一部が劣化しており切れていたようで、そこから水が浸入したようで、これでは胴長を持ってきた意味がありませんでした。

 

 

 

尾根の出だしはなかなか急な登りが続きます。

 

木々をかき分けしばらく急な尾根を登りきるといきなり尾根が広がり右手に光兎山と頭布山、左手にはこれから目指す鷲ヶ巣山の姿が見えるようになります。

 

 

 

広い尾根は雪で埋め尽くされ、ようやく歩きやすくなりました。

 

「これで楽勝、今日はどこまで行けるかな」なんてことを考えながら悠々と雪原を歩いているとやがて尾根は狭まり、雪は落ちて目の前には灌木に覆われた痩せ尾根が鋸歯のように登り下りを繰り返しながら山頂手前まで続いております。

 

予想していた踏み跡は痕跡すらなく、行けども行けども藪があるのみでした。

 

それまで順調だった歩程も一気に鈍り、僅か数メートル進むのに今までの何倍もの時間を要するようになりました。

 

いつしか尾根は岩尾根となり御神楽岳の蟻の戸渡りよりも怖いくらい狭まっております。

 

そうこうするうちに今度は急な壁へと変化し、行く手を阻み続けます。

 

飯豊のダイコンオロシを小さくしたような箇所は木々に掴まりながら何とか乗り越え、やっと山頂直下の雪原に出ることが出来ました。

 

急な雪斜面を登りきるとすぐそこは鷲ヶ巣山頂です。

 

それにしても踏み跡どころか雪面には熊の足跡すらありません、これは予想外でした。

 

 

 

山頂では一人の登山者が休憩していて反対方向から歩いてくる私の姿を見て不思議そうな顔をされておりました。

 

いろいろと聞かれたら説明が面倒だなと思っていたところ「田中さんですか?」と聞いてきたので「そうです」と言ったらそれだけで理解していただいたようで大変に助かりました。

 

 

 

その方には「頭布山は村上市との境界尾根を登ったのですか?」とも聞かれました。

 

そう言えば先日、頭布山の登山日記を掲載しましたがルートを詳しく書かなかったことを思い出しました。

 

その方は私のホームページを読んでくれていたようです。

 

一応、参考までにここでお知らせしておきますが先日の頭布山ルートは村上市との市境界尾根を踏破したのではありません。

 

あそこは距離が長い上に常識外れの痩せ尾根が連続していて通過にはかなり苦労します、とても人を連れて行けるようなところではありません。

 

 

 

山頂でお会いした方に「頭布山へ登ったことはありますか?」と聞いたところ「私はありません、普通の登山者です」といった返事が返ってきました。

 

 

 

ということは、もしかして私は普通ではないのだろうか?

 

前から薄々感づいてはいたのですがやっぱり・・・。

 

その人はそんなに深い意味などなく「普通」と言われたのであろうと思います。

 

しかしあらためて普通でないということに気が付かされた私は、ここでせっかくの機会ですから普通でない人ということを私なりに分析してみました。

 

 

 

普通でない人を大別すると二つのグループに別れます。

 

グループ1

 

立派な人、偉い人、天才 等々。

 

 

 

グループ2

 

変わり者、変態、変質者、おかしな人 等々

 

 

 

どう考えても私の場合は後者の方に該当します。

 

これは困ったものです。

 

 

 

それにしても結構分からないうちに多くの方にホームページを読んでいただいているようで、変なことは書けないとつくづく感じました。

 

 

 

鷲ヶ山頂には祠があり古くから信仰されていたことで有名な山です。

 

山麓の岩崩集落の人々は今でも山頂や山中にある祠を手入れしていると聞きます。

 

 

 

鷲ヶ巣山のワシとは鳥の名を言うのではなく雪崩のことをいうのだそうです。

 

鷲ヶ巣とは雪崩の巣といった山名ということになります。

 

 

 

鷲ヶ巣山頂から山形県側に目を向けるとすぐ近くに鷹ノ巣山が大きく聳えておりますが、鷲ヶ巣と鷹ノ巣といった似かよった山名には何か因果関係みたいなものはあるのでしょうか?

 

 

 

そして鷲ヶ巣山から鷹ノ巣山を越えて県境尾根へと続く峰々は不思議でへんてこりんで奇怪な形をしており、そのへんてこりんな最たる二ヶ所には、どちらにも烏帽子岩という名前が付けられております。

 

今日はこの鷲ヶ巣山が目的ではありません、できることなら1時間でも2時間でもそのへんてこりんな烏帽子岩に向かって歩いてみたかったのですが、鷲ヶ巣山へ向かう途中で濃い藪に阻まれ、そこで時間を使いすぎてしまいました。

 

このまま帰るのも悔しいような気がするので少しだけ烏帽子岩方面に向かい、遠くからその奇怪な形状の尾根をじっくり眺めて再び元来たところを戻りました。

 

 

 

それにしても普通に登山道を登れば3時間程度で登ることができたのに小揚から林道歩きも含めて5時間以上もかけて登ったのですから、確かに私は普通ではありませんでした。

 

そのお蔭で予定していた烏帽子岩へ向かう尾根の探索ができなかったのですから・・・。

 

今回の失敗を機に、これからは普通の人になろうと思いました、今度は普通に登山道を歩いて鷲ヶ巣山に登頂しようと、そしてちゃんと予定通り烏帽子岩に向かってみようと、そう思いました。

 

そしてその時からは堂々と「私は普通の登山者である」と胸を張って言えるようになるのではないかと思っております。