飯豊正月山行荷上げ(荷ハゲ)

 

10月27日

 

 

 

今年は仕事が忙しいので山行日記を書く数が減り、ひとつの文章を書くのにも時間がかかってしまっております。

 

さらに会社で山行日記を書こうと思っても3人いる事務員がいつもぺちゃくちゃと喋っているのでうるさくて気が散り、重要な文章である山行日記をなかなか落ち着いて書かせてもらえません。

 

「関ジャニのチケットが取れたよ」、「へー凄いね、でも嵐の方がいいな」なんて会話が聞こえてくるのですが、3人のうち2人は50歳を過ぎております。

 

会話の内容が気持ち悪くて、そんな話が耳に入ってくると気分が悪くなりとても居たたまれず外回りへと逃げて行ってしまいます。

 

「山行日記を書くから静かにしてくれ」なんて文句でも言おうものなら何倍にもなって文句が返ってきて3人にとっちめられてしまいます。

 

それにはとても困っているところであり山行日記の減少や遅れに拍車がかかっているひとつの要因となっており、それでも日記を滞らせるわけにもいかないので何とかこの山行日記も残業をして書いている次第でございます。

 

 

 

一人で荷上げをするのは今年で3年目になりますが、休みの都合とか考えるとちょっと早めですが10月第3週に実施するようにしております。

 

去年と一昨年の10月3週は曇り空でちょうど良い荷上げ日和でありましたが、今回は大雨です、それでも晴れているよりかはましですけどね。

 

 

 

奥川入荘前で登山靴や雨具を着用していると奥川入の主人が来て「ついこの前豊栄山岳会の連中が来ていったよ」と教えてくれました。

 

「それではキノコももう無いかもしれない、さっさと終わらせて帰ってこよう」そう思いながら荷上げへと向かいました。

 

今年は気温が高いのか紅葉が遅れているようで登山口付近は雨で濡れた葉っぱがまだ緑色に光っております。

 

例年ですとこの辺りの紅葉は末期の頃で、西俣峰から先へ行くと木々はすでに葉を落とし、冬支度を終えたものがほとんどとなっております。

 

 

 

それにしても相変わらずここの最初の登りは急です、荷上げ品の重さがザックを伝って肩にズッシリと食い込んできます。

 

何度歩いても苦労するこの尾根の出だしは両手両足を使ってようやく大曲で一段落です。

 

足元にはいつもある赤や黄色の落ち葉は見当たらず、いくらか歩きやすく感じます。

 

落ち葉どころか、この登りは積雪があると胸までのラッセルとなり地獄の急登となるところです。

 

「今年の正月は少雪であってほしいものだ」なんて考えながら大曲で休憩しているとさっそくナメコを見つけました、採取するのは帰りです。

 

 

 

大曲から一つ目の荷上げヶ所である十文字池まで無積雪状態だと30分もあれば十分に着くことができます。

 

去年荷上げした木を注意深く探しながら歩くと簡単に見つけることができました、良く憶えているものです。

 

雨は強く降っておりましたが、この時点ではそれほど寒くなく、元気にびっしりと付いている葉っぱが邪魔でしたが、それほど苦労することなく荷上げ品を木に固定することができました。

 

 

 

ここから大ドミまで今度はキノコを注意深く探しながら歩きました。

 

腐れたナメコやブナハリタケが時々見つかる程度で、十文字池付近でいつも採取していたクリタケは見つかりませんでした。

 

正規登山ルートではないこの西俣道は藪化が進んでおり、キノコを見つけようとよそ見をしていたら登山道に張り出した木の幹に頭頂部を擦ってしまいヒリヒリしています。

 

「擦ったところの髪の毛が抜けていないだろうか?」貴重な髪の毛なので心配です、「これじゃあ荷上げでなく荷ハゲになってしまうではないか」ヒリヒリ痛む頭を気にしながら西俣峰に到着。

 

ここまで来ると大雨に加えてガスの中に入るようになり、風が冷たくて全身ずぶ濡れ状態で寒くて大変です。

 

キノコなど探す余裕すらなくなり、早々に下山することばかり考えるようになっておりました。

 

 

 

大ドミで荷上げ品をいつも固定している木はすぐに見つかり、スリングとカラビナを使って登りますが、この寒い中で歩いているのならまだしもまるで猿のように木に登り木の上部で雨にうたれ冷たい風に吹かれながら俺はいったい何をやっているのだろうか?知らない人が見たら変に思われそうです。

 

しかし擦った頭頂部には雨水が溜まって冷却され、ヒリヒリが少し緩和されているようです。

 

かじかんだ指でなんとか荷物を固定し、ブランド名である「これおれの」、「田中のもの」と刻印された荷物のロゴを確認して早々に下山を始めました。

 

とにかく歩いてなければ寒くて仕方がありません、軽くなった荷物で軽快になり、早歩きで下りはじめますが、そんな私の目の前には来るとき見つけなかった立派なブナハリタケが群生しているではありませんか、やはり見つけたからには採取しなければなりません。

 

その後も登山道脇に群生しているナメコを見つけ、そこから誘われるように藪へと進んで行きナメコを探しながらの下山となりました。

 

 

 

帰り道、時々振り返ると薄らと雪化粧した飯豊の稜線が雲の切れ間から見え隠れしています。

 

「今年はどんな正月山行になるのだろうか?」期待よりも不安が大きく募り、私は押し潰されそうになります、冬の飯豊の魔力にまた今年も屈してしまうのだろうか?

 

今年の一年間は古傷である右側の腰の痛みに悩まされました、その腰の痛みは山に登れば登るほど激しさを増していきます。

 

いつまで若くない、年々衰えてゆく体力と気力にもがき苦しみながら今年もいよいよ正月がやってきます。

 

 

 

奥川入に着くと、全身ずぶ濡れの私を見た奥川入の主人は「風呂に入っていきなよ」と言ってくれ、その言葉に甘えて風呂場へ直行、すぐに鏡で擦った頭頂部を確認してみたところ、髪の毛が抜け落ちた形跡はなく大丈夫のようでした。これで今回の山行は荷ハゲにならずに済んだようです。

 

でもよく考えてみると木に擦れて髪の毛が抜け落ちたわけでなく、そこは老化が原因、いや若禿が原因で最初から髪の毛が抜け落ちていた場所だったのです。

 

ということは今回の山行は最初から荷ハゲだったのかもしれません。

 

所属する山岳会には「荷上げに行ってきます」と事前に連絡しておりましたが、「荷ハゲに行ってきました」と修正する必要がありそうです。

 

 

 

採取したキノコはその日のうちに洗ってゴミを取り、次の日会社に持って行きました。

 

キノコを貰った事務員は喜び、事務所の中は事務員の喋り声と笑い声でますます賑やかになってしまいました、とにかく猛烈な勢いで喋り、笑います。

 

ひょっとしてキノコの中に間違ってオオワライタケでも入っていたのかもしれません。

 

オオワライタケの毒成分は中枢神経に作用して面白い幻覚症状を見るとのことです、また顔面がひきつり笑ったような顔になる場合もあるのだそうです。

 

いつも私と喧嘩ばかりしている事務員ですが、オオワライタケの成分が効いているのか、その日からニコニコしてしばらく喧嘩をすることはありませんでした。

 

でもあまりニコニコが続くとそれはそれで気持ちが悪いです、その場合中和させるために今度は中枢神経に作用して恐怖幻覚を見るというヒカゲシビレダケでも採取して来てみましょう。

 

それにしても前にも増して賑やかな事務所に私は益々居ることができなくなり、しばらく山行日記は残業をして書くしかなさそうです…。