道具の話5
アイゼン
悪天続きで山などへ行けない時は、暇を見つけては道具の話などを書くようにしてHPの空間を埋めるように心がけており、要するに道具の話は山行文の場つなぎ的ないわゆるおまけのようなものといったつもりでありましたが、これが意外にも読んでくれている方が多くおられるようで、先日も紅葉の飯豊の中でザックのことを少し書いたところ、私の大好きな方(もちろん女性)から「道具の話が面白い」と御指摘を頂いていた次第でありました。
今年は忙しさのあまり山行文を書くことですらままならない状況が続いており、それが道具の話ともなると、まったく書くことができずずっと気になっておりました。
そしてようやく随分と間が空きましたが、今回何とか道具の話5を掲載するに至ることができました。
この前、本屋さんで飯豊・朝日・吾妻の写真集を見つけました。
パラパラとめくっていると、なんとそこに若かりし頃の米沢の湯沢さんがカメラマンとして顔写真付きで載っているではありませんか!
湯沢さんは新潟と山形の県境をすべて歩いた写真集を出されていて、そこには私が今年の春先に苦労してやっと行ってきたシラブ峰のある関川村と小国町の県境尾根を踏破した記録写真が残されております。
湯沢さんと言えば私のような大馬鹿者とは違って大変に寡黙なお方で、あまり物事を口に出して言うような人ではありませんが、実は山形県の山々をはじめ新潟県や福島県の地形図に載っている山はほとんど踏破しているような凄いお方でお話を聞いていてもほとんどの山を知り尽くしておられ、その詳しさにはとても驚かされるばかりです。
その湯沢さんに、飲み会で「テントシューズは何か良い改善策見つかりましたか?」と聞かれました。
私のHPの「道具の話4」を読んで下さっての質問だったのでしょう。
私が「いやー、テントシューズはまだ改善策はまったく見つかってないんですよー」と答えると「早く良い方法見つけてくださいよ」ということでした。
なんでも湯沢さんの友人がテントシューズを履いて用を足しに出たのか、除雪に出たのか、いずれにしても斜面を滑ってしまい滑落したということが以前にあったそうです。
テントシューズに関してなかなか良い方法が見つけられず、正直なところ「もう面倒だから、スーパーの買い物袋でもテントシューズの上から被せて使おう。」程度にしか考えてなかったということも事実でした。
あれほど苦労した正月の飯豊での一番大きな改善点だったのに、私自身喉元過ぎれば熱さを忘れるといった諺の通りになってしまっていたようで、湯沢さんに言われて、せっかくあんな苦しかったけれど貴重な体験をしてきたのに、すっかり忘れて疎かにしていたことに気が付きました。
ということもあり、かなり時間がたっていて恐縮ではありますが、今回の主題アイゼンの話の前にちょっとだけ道具の話4の続きを書かせて頂くことに致します。
本来、何か気の利いた素材を発掘し、手作りしなければならないと思うのですが、さしあたってまずは市販品を調べた結果、実はモンベル社から以前テントシューズカバーという商品が販売されており、一時は廃版となっていたようですが、今年になって復活したようです。
もしかしてモンベル社が私のHPを読んで考えてくれたのかもしれないですね。
これ以外に改善策は見つかっておりませんが、ひとつの策が見つかったことも確かです、今年の正月はこのモンベル社のテントシューズカバーなるものを試してみようと思っております。
それはそうと、湯沢さんのような巨匠がくだらない私のHPを読んでくれていたなんて、とても光栄に思いました。
それでは主題のアイゼンの話に移ります。
秋も深まり日に日に寒さが厳しさを増しているところでございますが、私は以前の道具の話の中で仙台に出張に行ったところ雪道に慣れていない人が多く居られ、転倒している方々が多く見られたと書きました。
あれから早や、春を経て夏が過ぎ秋ももう終わりに近づいてきております。
そろそろアイゼンの話を書いても良さそうな時期へと移ってまいりました。
自己紹介のところでも書いておりますが、私の登山のルーツは山菜採りから始まっております。
ゼンマイが自生しているところの多くは雪渓であり、崖でもあります。
当時の私はいつもスパイク付きの地下足袋で山菜取りに出かけておりました。
スパイク付の地下足袋は藪を歩くにはまあまあ適していると思うのですが、やはり雪の上ではある程度気を付けなければ滑りますし、地面を歩くところでは落ち葉を拾ってしまいスパイクが利かなくなって滑ってしまうようなことも度々あります。
ホームセンターでは地下足袋に付けられるアイゼンのようなものが市販されていますが、それほど使い勝手が良いような物ではないようです。
人によっては市販品を加工したり、あるいは地下足袋用のアイゼンを自作している方もおられます。
しかし私は溶接など鉄の加工技術についてはほとんど持ち合わせておりません。
地下足袋に自作アイゼンを着けて歩いている人をとても羨ましく思っておりました。
登山を始めるようになって、初めて目の前で12本爪アイゼンを見たときは、「こんな凄いの着けてどんなところに行くんだ!?とんでもない山に行くのではないのか!」そう思ったことを憶えております。
それから確か朝日連峰だったと思いましたが初めて12本爪アイゼンを着けて登った時、あるいは初めて飯豊の石転びの急斜面を登ったときのあの滑らない感覚を味わった時は甚く感動し、それ以来アイゼンが大好きになってしまいました。
その後はろくに使いもしないのに店頭で良さそうに見えるアイゼンはつい買ってしまい、今ではアイゼンが家で山積になっていて、他の登山道具はしっかり整理して、その山行に合ったものをキチンと使い分けているつもりですが、唯一アイゼンについてはいい加減になってしまっていて、いっぱい有りすぎて自分でも在庫が分からなくなっているうえ、勝ったのはいいが目的を考えて買ったわけではないものもあり、どのような山行で使かえばいいのか使いにくいもの、あるいは私の山行ではあまり使え無さそうなものとかもあったりで、もう訳がわからない状態となっております。
それでも一応、少なからずとも買ったものは使っていて、あくまで私自身の感覚とでも言いましょうか、カタログ等を読んで調べたものではなく私自身が使ってみた感触を書いております。
だから果たしてどこまで他の人に参考になるものか、それは私も計り知れないところにてございます。
正直なところアイゼンはどこのメーカーの物を使っても歩行自体はそれほど差がないように私は思います。
購入にあたって価格や重量あるいはデザインといった観点で選んでも問題なさそうに思います。
ただ微妙にそれぞれ違いがあるでしょうし、それぞれ使った感触など個人差があろうかと思います。
それからアイゼンは12本爪、10本爪、8本爪、6本爪、4本爪などがあろうかと思いますが、まず4本爪に関しては夏場の万が一の備えとしてしか使えないと思っているのでこれは論外として、通常使用するアイゼンとしては6本爪からという考えで使用しております。
ただし6本爪アイゼンも最初から使用ありき状況での持参はあまりお勧めできず、初冬や春遅い頃や初夏での雪深い高山で持参が望ましいと考えております。
8本爪に関しては製造メーカーが少なく、あまり出回ってないのでよく分かりませんが、6本爪アイゼンと同等と考えても良いのではないかと考えます。
一般縦走用としては10本爪と12本爪が主流になると思いますが、これらについてはいろいろな意見があり、私からは何とも言い難い面が多々ありますが、いずれにしても現在は12本爪の方が圧倒的に使用されている率は高いものと思われます。
ただし実際に使用してみたところでは大差が無いように感じるのは私だけでしょうか?むしろ10本爪の方が爪が少ない分歩きやすい上に、理屈から言ってアイゼンの爪にかかる重量が12本より10本の方が負荷が大きいので良く刺さるのではないかと考えらえます。
ただし西穂山頂手前の氷の壁を登った時は少しでも爪の多い方が安心感があると感じました、気持ちの問題といえばそれまでですが、気持ちの問題はある意味大きいということも間違いありません…。
それから足の小さい女性は12本だと爪の間隔が狭いので雪が詰まって足裏が団子になりやすいと言われておりますが、確かにそれは考えられますが、実際どうなのでしょう?そんなに差があるものでしょうか?
私自身使った感覚ではグリベルのアイゼンはアンチスノープレートが非常に良く効くようでどんな雪質でも団子ができにくいように感じます。
足裏の団子ができる要因としてはその時の雪質が大きく作用するでしょうし、メーカーの作りによるところもまた大きいと思います。
装着方式についてはワンタッチ式、セミワンタッチ式、バンド式がありますが、ワンタッチ式は装着が簡単で厚い手袋をしていても大丈夫です、しかし不意に外れる時がありますし、登山靴の底に無理がかかるのであまり好きではありません、それから靴と金具の相性がありメーカーによって装着不能のものもあります。
セミワンタッチについてはワンタッチほど装着は楽ではありませんが、外れることはほとんどないようですし、靴との相性もあまり関係なさそうです。バンド式とワンタッチ式の中間的と言うか良いとこ取りということでこれを使っている人が一番多いようです、しかし私的にはやはり靴に無理のかかる装着方法なのでこれも好きでありません。
バンド式はリングにバンドを通したり、卍型に紐を結んだりとメーカーによって着け方は様々ですが、もちろん装着には一番手間がかかるものです。
ただ手間と言っても劇的に違うわけでなく、特別に時間がかかるということではありません、せいぜい時間にして1分か2分程度の差だと思います。
装着時間に関してはその時に着けている手袋にもよりますし、いくらワンタッチアイゼンでもアイゼンケースが扱いにくいものであれば、アイゼンの出し入れに時間がかかり、結局手袋を外すなどしてしまうのであれば、まったく意味がないことになります。
ただバンド式を使う場合では着け方や縛り方が分からないのではどうにもなりませんが…。
大事なことは事前に靴に合わせることはもちろんですが、装着の練習を少しでも山行前にやっておくことでしょう、と言うかそれが常識です。
バンド式は歩いている途中で外れる心配はなく時々緩みがあるか確認する程度で済みますし、靴との相性もまったく関係ありません、それにバンドで固定するので構造上靴自体に無理がかかることはありません。
そんな理由から、素朴で地道な装着方法でありますが一番間違いがありません、私はできる限りバンド式を購入するようにしてります。
ただし、これも私の好みを書きましたが実際のところ人それぞれだと思います。
それから材質についてですが各社から通常品以外にもアルミ製アイゼンが発売されており、とにかく軽量に作られています。
しかしアルミ製なので強度はかなり弱いようで爪が折れているものを良く見かけますし、すり減りが異常に早くて正直なところ私の様な山歩きをする者にはまったく使い物にならないようです。
物は使いようですから、買わない方が良いとは言いませんが、金額的にも通常の材質の物と差がないですし、私はあまり良い物だとは思えません。
あと最近見かけなくなりましたがチタン製の物も一時は多く出回っておりました、軽くて丈夫なのですがとにかく高価な代物です。
軽さはアルミほどではなく、強度やすり減りに関しては一般材質品と同等程度かほんの少し、気持ち程度劣るかなって感じがします。
チタンは加工が非常に難しいとのことで、ピッケルと違いアイゼンの様な複雑な加工品は製造しても採算が合わないということで最近出回らなくなったのではないかとのことです。
ここで今まで私自身が経験したアイゼンの失敗談をいくつか挙げておきます。
初めて正月の飯豊に登った時の話です。
正月に飯豊に登るにあたり私はグリベルのG12というアイゼンを新調しました。
もちろん購入後すぐに登山靴にあわせて長さを調節して、他の山で試履きもしてみました。
しかしベルトの長さ調節をおこなわないまま余ったベルト部分は適当に丸めて縛り付けておりました。
試履き程度の山では問題なかったのですが、さすがに厳冬期の飯豊では歩行の厳しさが格段に違い、余ったバンド部分が解けて片方の足でバンドを踏んで転倒し、標識の束を持っていたのでピッケルをしっかり持つことができてなくて、ピッケルは手から離れてしまい、私の体は急斜面を滑り落ちました。
何とかアイゼンを少しずつ斜面に利かせて止まることができましたが、もう少しであわや滑落という事態になるところでした。
あと光兎山での出来事ですが、2月の晴天の日にプラスチックブーツにワンタッチアイゼンを装着して山頂付近まで来た時のこと、光兎山と言えば女川山塊特有のナイフエッジの山であり、山頂手前の斜面は細く急な雪壁と化しておりました、ちょうどそこを通過しているときにワンタッチアイゼンが外れ、慌てて着け直そうかと思ったらアイゼンが外れたのではなくプラスチックブーツの靴底もろとも剥がれ落ちてしまっておりました。
片方の靴底が無くなり、つるつるの靴底で恐る恐るナイフエッジの尾根の下山を余儀なくさせられたということがありました。
ワンタッチアイゼンは装着が簡単スピーディですが靴に無理がかかり今回のようにプラスチックブーツは靴底が剥げるようなことが起きます、それが革靴となると靴全体が傷みそうであまり使いたくない、とこの時に思いました。
それからもうひとつ失敗談を…、寝ようと思い寝袋に入って「何か枕を」と思い柔らかい物を頭にあてていると、夜中に枕がずれて寝ぼけながら付近にあるものを頭にあてがったら痛かった、しかし眠いので気にせずそのまま眠り、朝になって頭の下にアイゼンがあったのに気が付いた…、どうりでしっかり頭にくい付いてずれなかったわけです。
こんなことが数回も続き、何故だかいつもアイゼンは私の冬期登山の枕になってしまいます。
朝起きた時、後頭部の痛みで目覚めがすこぶる悪くなり気分はとても悪いものでした。
そんなことが数回続くと人間とは優秀な生き物でちゃんと学習をし、いつしか寝る時にアイゼンは頭の付近に置かないようにして眠るようになっておりました。
ところがある日のこと、仕事で職人さんと山小屋に泊まった時に職人さんは夜中におしっこに行こうとしていたのだがヘッデンがなく物につまずいたりしてようやくトイレに行ったようです、その時に私の足元に置いてあったアイゼンを蹴って、蹴られたアイゼンは私の頭付近に転がり、またいつものように寝ぼけて頭の下にアイゼンを置き、後頭部にアイゼンはしっかりとくい込んで翌朝までアイゼンはめでたく私の後頭部の下敷きになっておりました。
それから後、その職人さんにはヘッデンをプレゼントして差し上げました。
それから今度はアイゼンの保管について失敗したことがあります、私はいつもアイゼンを使用した後は、ぬるま湯で一通り洗って完全に乾くまで良く干し、その後必要に応じてアイゼンの爪の先やアンチスノープレートの留め金具などに錆止めスプレーをしてから保管します。
そうこうするうちにアイゼンが活躍する季節は終わりを迎え、やがて春が終わり初夏を迎える頃からアイゼンしばらくのシーズンオフに入り、長い休眠期間に入ります。
夏の陽射しが強い期間、保管場所に積み上げられたアイゼンには夏の強い陽射しが隙間から漏れ、ひとつのアイゼン照らし続けておりました、そのアイゼンはシャルレ(現ペツル)という超高級メーカーのもので、アンチスノープレートだけで5千円もするものでした。
シャルレのアンチスノープレートはゴムでできておりどうやら太陽光線には弱いようで、眠ったままひと夏の日の光を浴び続けたお蔭で高価なアンチスノープレートはボロボロになっていたということがありました。
その後、そのシャルレのアイゼンは下越山岳会の新井田さんに差し上げましたが、彼は他社の多数のメーカーに併用できるアンチスノープレートを加工して着けて使用しているそうで、無事に陽の目を見ることができて良かったと思っております。
次に、ここでアイゼンの歴史なども一応書いておきます。
アイゼンはドイツ人のグリベルという人が雪渓を歩くために鉄を加工して10本爪のものを作ったのが最初と言われています。
その後、これまで鉄製だったものからモリブデン合金という強くて軽く錆びにくい材質の物が考案され12本爪が主流となり、現在に至っているということです。
一般縦走用12本爪アイゼンだけですが、各メーカーを自分なりに比較してみました。
それから繰り返しますがあくまで私個人の感覚ですので、少々の思い入れも含めて書いてしまいがちになっていることを予め書き添えさせていただきます。
1 ペツル バサック 定価23,625円
バンド式940g、セミワンタッチ930g、ワンタッチ920g
大変に高級なアイゼンです。そもそもペツルというメーカーはアイゼンに限らず高価なブランドです。
品質はというとまあまあだと思いますが、値段の割ではないかなあ。
特徴としては940gの標記の割にとにかく重く感じます、先端が鋭利なうえに重さがあるので良く刺さります。
ジーンズを着用しているときでも腿にこのバサックを乗せておいただけで足が痛くなるほどです。
ただし氷状の固い雪質には向いておりますが柔らかい雪質には不向きのように思います。
春先に寒波が襲来して締まりかけた雪上に薄らと新雪が積もった時にこのアイゼンを着けて歩いたところアンチスノープレートが付いているにも関わらず足裏が雪で団子状態になってしまい危なくてとても歩けなかったということがありました。新雪上では概ねどんなアイゼンでも足裏の雪が団子になりますが、このアイゼンは特に酷いように思いました。
私個人の見解では新潟の雪質には不向きで、関東方面の山などの遠征時に良いのではないかと思います。
八ヶ岳でこのアイゼンを着用している人が多く居られました、八ヶ岳は高級趣向の登山者が多いようです、服装や装備に関して私なんか高くてとても手が出ないような物を着用している人が多くて驚きました、冬の八ヶ岳はまるで登山着スタイルのファッションショウのようでした。
新発田付近の山で良く見かけるカジタのアイゼンにカジタのピッケル、パイネの雨具に作業ズボンといったスタイルも八ヶ岳では恥さを覚えたくらいです。
しかしこの高級登山道具をしっかりと使いこなせている人はどの程度なのでしょうか?
この高級なアイゼンの着け方が分からないような人も多く見られます、さかさまにアイゼンを着けている人、後ろ前に着ける人などさまざまです。
常識から考えるといきなり山で着けないでまず購入後に家で靴に着けてみるものでしょう、バンドの長さ等も山に入る前に調節しておくべきでしょうしね。
まあ事前着用に関してはアイゼンに限ったことでありませんが…。
さらに着けたはいいがアイゼン歩行は不慣れなようで四苦八苦して登っておられるような方も多く見受けられました。
バサックはせっかく良く刺さるアイゼンなのに…、八ヶ岳あたりには最適のアイゼンだと思うのですが、どれくらいの人がちゃんと使いこなしていたものでしょう?
2 ブラックダイヤモンド セラック
バンド式 定価17850円 890g
セミワンタッチ式 定価18、900円 997g
ワンタッチ式 定価18、900円 999g
材質がステンレスなので固く、すり減りにも強いような気がします、重量も軽くなるなどの長所が挙げられますが、ステンレスは粒子が荒く先が鋭利にならないということと、無理な力を掛けると曲がるのではなく折れてしまう、さらにすり減りには強いもののそれでも徐々にすり減り、一度減ってしまったものは鉄のように研いで再生することは難しいなどの短所が挙げられると思います。
比較的ブラックダイヤモンドは品質が良い割に安価で、このアイゼンも安価なうえに使いやすいと思います。それからすり減り等を考慮すると氷の様な雪質より、比較的柔らかい新潟の雪質に向いていると思います。
3 グリベル 2種類
G12 定価22、575円
バンド1010g セミワンタッチ1060g ワンタッチ1080g
エアーテック定価18、900円
バンド890g セミワンタッチ940g ワンタッチ960g
アイゼンを考案したグリベル氏の設立したグリベル社からは多くの種類のアイゼンが出ておりますが、12本爪の一般的な物としては刃先が長いG12という商品名のものと、岩場にも対応できるような刃先の短いエアーテックという2種類が出ています。
G12の方は刃先が太く長い分重量が嵩むのは当たり前ですし、実際に着用してみても刃が長ければ歩きにくくなるのは当然のことです。
岩場がミックスするようなところや雪渓歩きが途切れ途切れの場所などには不向きなアイゼンでしょう。
前爪だけで登るような氷状の急斜面では安心感がありますし、雪渓が途切れることなく続くようなところ、例えば飯豊の石転びなどにもこのアイゼンは使い勝手が良いのではないかと思っております。
今度は刃先の短い方の話に移りますが、このアイゼンはエアーテックという商品名で売られており、現在一番良く見かけるアイゼンだと思います。
特徴は刃先が長いものとまったく対称的ということになります。
私が使ってみて感じた最大の長所はやはり歩きやすいということでした、それから軽いので使わずに長時間ザックの中に入れておいても比較的重さは感じません。価格も安い方なのでそれらのことから考えると、初心者向けアイゼンと考えてもいいのではないのでしょうか?だからと言ってベテランが使っても使いやすいということは変わりません。
刺さりが浅く、固い雪でも柔らかい雪でも急斜面下での使用時では少々の不安感を拭うことができません、大丈夫だとは思うのですが、一応雪上歩きが厳しそうな山行に私は持って行かないようにしております。
4 シモン マカルー 定価22、050円
バンド965g セミワンタッチ1005g ワンタッチ965g
シモンのアイゼンはあまり新潟の登山道具店では見かけませんので、人が使っているところもあまり見かけないです。
私自身、シモンのアイゼンは10本爪の物を持っていますが10本爪の割に重く感じます。
刃先は長く、先端は非常に鋭利で足の上に乗せただけでペツルのアイゼン以上に痛く感じます。
これらを考えるとおそらく信用の高いアイゼンなのだと思います、ただ市場にあまり出回ってないだけで…。
それからカイマンジグラルと言う商品名で売られている10本爪アルミアイゼンも持っておりますが、軟雪を歩くときくらいしか使い道が無く、これは論外ですね。
5 カンプ 2種類
C12 バンド式 定価18、900円 1088g
C12 セミワンタッチ式 定価19、425円 1005g
C12 ワンタッチ式 定価19、425円 1106g
ストーカー バンド式 定価14、175円 1080g
ストーカー セミワンタッチ式 定価15、750円 1120g
カンプのアイゼンに関しては新潟あたりですと市場に出回ってなく周囲に使っている人もほとんどいないので、まったく分かりません。
しかしヨーロッパの名のある一流メーカーなので商品自体はシモンと同様に信頼できるものだと思われます。
数年前に石井運動具店でバーゲン品の中に一種類だけ売られているのを見たことがあります、オーソドックスでありますが純然たるしっかりとした商品だったように思いました。
6 エキスパートオブジャパン 12本爪 定価19、635円
バンド690g ワンタッチ760g
数少ない国産メーカーでありますが、日本の鍛冶職人の技術の結集というよりも軽く薄いということがテーマになっていそうな商品です。
作りは海外品に比べるとどことなく簡素で堅牢性に欠け、チャチな雰囲気が漂い、どうしても安っぽく感じてしまいます。
だからと言って壊れるといった話は聞いたことがないですし、どこまで耐久性があるものかは計り知れませんが、軽さだけだと素晴らしいものだと思います。
しかし使うにしてはとても弱そうに見えるので怖くて使いにくく感じるのか、購入する人が少ないようで私の周囲にも使っている人はあまり見かけません、よく店に置いてあるのは見かけるのですが…。
私自身、実はこのメーカーのチタンアイゼンを持っております、正規品に関してはどうしても買う気にならないのですが、超希少なエキスパートオブジャパンのチタンアイゼンは、物珍しさからつい購入してしまいました、もちろん目玉が飛び出るほど大変に高価でした。
しかしその後、購入したものの手でも簡単に曲がるようなか弱いアイゼンはどうしても使う気になれず、唯一未使用のまま私のアイゼンコレクションの自慢の一品としての一翼を担っております。
7 モンベル(カジタ)
LXB12 セミワンタッチ 定価14、000円 875g
LXT12 バンド 定価13、000円 766g
カジタのアイゼンは指先が器用な日本人が誇る鍛冶職人の技術と物造り精神がいきづいた、メイドインジャパンの傑作アイゼンだと私は思います。
以前は多くの種類が発売されておりましたが、登山ブームが到来したにもかかわらず舶来品アイゼンにおされてしまい、残念ながら一時は閉鎖となっていたようですが、めでたくモンベル社から復活することとなり、現在に至っております。しかしとても残念なことに種類が上記の2種類しか販売されていないようで、一般的に普及されていたXBシリーズの再発が望まれるところであります。
マッターホルンの経験者に話をお伺いしたころによると岩壁が連続するような山だと前爪の形状や角度が微妙に影響してくるのだそうで、使えるアイゼンは限られてくるのだそうです。このカジタのアイゼンもそのようなところには不向きな爪の形状と角度をしているらしく、確かに日本の山は海外の山とは違って緑に覆われており、日本の山の岩場などはヨーロッパアルプスを10とすると日本の場合は1あるかないか程度のちっぽけな規模の物だということです。
だから逆にカジタのアイゼンはまさに日本の山には最適な造りではないかと思うのです。
元来日本人は舶来品かぶれとでも言いましょうか、現在、ペツルやグリベル、ブラックダイヤモンド等々舶来品ばかりが店頭に並んでいて、実際に山で使われているアイゼンもそんな舶来品ばかりです、しかし日本の山ではそれら舶来品は無用の長物と化しているのではないでしょうか?
確かに舶来品は格好いいものであります、しかし武骨で華やかさはありませんが国内の山で一般縦走用としての使いやすさではカジタ製の物が一番だと私は思います。
それから参考程度に、6本爪アイゼンもいろいろと試してみておりますが、モンベル社の物が装着しやすく靴にもよくなじんで、一番使いやすいと感じております。
このモンベルの6本爪アイゼンはカジタ製ではなくモンベルの正規品です。去年、金峰山をこのモンベルの6本爪アイゼンで登りました、金峰山は積雪が少ないのですが、関東地方特有の低温になる山で、カチンカチンに凍ったところを私は飛び跳ねるように登ってきました。
下山後、アイゼンを外すと歪んでいて、自分で修理することができましたが、やはり6本爪は弱いようです、おそらくどこのメーカーの物を使っても歪みがでるか、もしかしたら壊れてしまっていたかもしれません。
また、そのモンベルからバンド式でラチェット方式の物が出ております、このラチェット方式は非常に楽ちん装着方式ですが、壊れてしまえばどうにもならず、私は怖くてとても使えません。
登攀の最中に壊れてしまえば場所によっては滑落、イチコロになってしまうことでしょう。
その他、私はミゾ—というメイドインジャパンのチタンアイゼンを持っております、このアイゼンの形はカジタアイゼンと瓜二つで、ただ材質がチタンとなっております。
定価は確か5万円くらいだったと思いました、強度は鉄と同じということです、でも重量は半分程度の530gしかありません、現在は造られておらず高価な上に非常に貴重な物ということもあり、もったいなくてなかなか使えないのですが、正月の飯豊だけは必ずこのアイゼンを持って行くようにしております。
それからさらにサレワというフランスのメーカーからも以前チタンアイゼンが出ておりました、ミゾ—より肉厚でその分重量が670gもあります。
価格もやはりミゾ—同様5万円程度だったように思います。
アイゼン大好きな私は実はこのサレワのチタンアイゼンも買ってしまっておりまして…、これは結構使っておりますがね…。
それからついでに、アイゼンケースのことにも少しだけ触れておきます。
アイゼンケースは国産品が優秀で、ザックメーカーのマウンテンダックスやテントの老舗であるアライあたりから出ております。
マウンテンダックスのアイゼンケースは何度もモデルチェンジを繰り返しておりますが、最新式の現行のものは出し入れも楽ですし、バンドが付いているのでザックに吊り下げて歩くこともできます。
ナイロンカバーが片面にしか付いておらず、アイゼンを入れる時に向きに注意しなければなりません。
アライの商品は紐で口を閉じたり開けたりするタイプのもので少し出し入れが面倒です、全面ナイロンカバーに覆われておりますので、しまう時のアイゼンの向きを気にしなくて済みます。
このアライのアイゼンケースはパイネからも同じものが発売されております。
これ以外にもペツルやグリベル、ブラックダイヤモンドといった海外勢のアイゼンケースも出ておりますが、正直使い物になりません。
これはメッシュ仕様というところに大きな問題があるのですが、これらの商品はケースの片面あるいは一部がメッシュ使用になっていて、ザックにぶら下げて歩いていると雪が吹き込んでケースの中でアイゼンが雪まみれになっているし、一度使用したものをザックの中に入れようものならそのメッシュからアイゼンに付着した雪が解けだしザックの中は大変なことになってしまいます
しかもメッシュ部分は弱くてよくそこが破けているのを見かけます。
値段ばかりは非常に高価で国産品の倍くらいするようです。
これ以外にもモンベル社や寝袋メーカーのイスカあたりからもアイゼンケースが出ているようです。
モンベルもイスカも国産なので、もしかしたら使い勝手は良いかもしれません。
ただしモンベル社から出ている風呂敷のようにアイゼンを包むタイプの物は出すときは簡単そうですがしまう時は面倒そうです、それに使ったアイゼンはザックの中に仕舞うとメッシュと同様の結末になりそうな気がしますし、だからと言って風呂敷タイプではザックの外に吊り下げにくそうですしね…、私は使ったことがないので詳細はよく分かりませんが…。
以上、アイゼンの話はこれで終わりですが、随分と私個人的な思い入れや身勝手なことを書いてしまったところもあるかと思います。
単なる私個人の面白話として読んでいただけたらと思っております。
これからは寒くなります、このアイゼンの話を参考にして購入し、そして普段からアイゼンを滑り止めに使ってみてはいかがでしょうか、買い物やお散歩の時など滑ることなく安心ですよ、慣れればもしかするとアイゼンを着けたまま車の運転などもできるようになるかもしれません。
それから枕の代わりにも使ってみてください、特に寝相が悪い人にお勧めです、頭にしっかりとくいこんでなかなか外れません。