北八ヶ岳スノーシューハイク
2月16日~17日
山へ登るにあたり地図を見たりコースタイムを調べたりあるいは装備や山小屋、気象等々思い当る準備はいろいろありますが、私の場合はそれら以外に山に纏わる歴史や信仰、風土といったものを調べるのが好きで、事前にそれらのことも調べて山に登ります。
いざという時に何の役にも立たないある意味余計な知識ではありますが、私としては登山の面白さや楽しさは倍増しております。
それら山々のことを調べるには多くの文献や資料が必要で、私の家には新潟県内や東北の山々についての文献、資料が山積になっております。
しかし今回行ってきた八ヶ岳を調べようと思ったら関連する資料が非常に乏しく、長野県や関東方面から南西に位置する山々の資料は極端に少ないということに気が付きました。
群馬県の山々や北アルプス付近の資料については上信越や奥利根の文献や資料が多くあるのでそれら資料の中に多く含まれているのですが、さすがに八ヶ岳方面のものまではちょっとしかありませんでした。
八ヶ岳に関しては太平洋気候の影響下にある山で冬の天気が安定しているので新潟が悪天候続きで登ることができない冬場に比較的手軽に訪れることのできる山域という印象があります。
しかし山自体は標高が高いので冬の厳しさが随所に感じられ、冬山の美しさを味わうことができ、高山的な雰囲気を初心者でも十分に楽しむことができるとても素晴らしいところでありますが、何しろ人が多すぎて山と言うよりも公園と言った方が相応しく感じてしまいます。
今年の新潟県内は例年にも増して天候に恵まれず、山行という山行は正月の飯豊以来となり1月はほとんど体を動かすことがなかったので私のお腹の肉はぶよぶよと成長してとても見事な物になりました。
そんな重くなった体を慣らすには北八ヶ岳はちょうどいいところです。
営業小屋泊ということもあって、実はこの山行を楽しみにしておりました、ちょっとした旅行気分です。
ただ一つとても心配していたのは私のような田舎者が言わば大都会の八ヶ岳に果たしてすんなり入り込むことができるのだろうか?
遥々八ヶ岳まで遠征して田舎者扱いされるのも嫌なものです。
作業服に作業用ゴム手袋、そこに釘袋をぶら下げたスタイル、そんな新潟でのスタンダードな服装を断腸の思いで都会スタイルに変える決意をしました。
山ガールの雑誌を購入し、巷で流行の服でも買おうと思ったけどとても高くて手がでません、服は運動具店ではなく近所の安価な呉服屋さんでできるだけ山ガールっぽいものを買って、手袋は作業洋品店でゴム手袋以外のものを新調し釘袋は思い切ってやめることにしました。
これでとりあえず服装は整いました、あとは言葉使いです。
標準語に時折横文字を織り交ぜる等工夫を凝らす勉強をして一生懸命きたる八ヶ岳に備えました。
出発当日は寒気が流れ込んで日本海側の天候は大荒れ、大変な門出となりました。
長野自動車道に入ると妙高高原付近は一寸先が見えないほどの猛吹雪に見舞われていて大変な思いで通過し、長野あたりでようやく吹雪が終わるも諏訪インターで高速道路を下りると下道は凍った圧雪となっていて、そのうえ標識もあまり出ていないため道に迷いながら苦労してようやくピラタスロープウェイに到着しました。
ロープウェイ乗り場は登山客とスキー客で8割くらい、あとは普段着のおそらくカメラマンと思われる大変多くの方たちが出発を待っていました。
すっかり垢抜けて都会人と化した私は、自分で言うのも何ですが都会の雰囲気にすっかり溶け込んでいて、雑踏の中でも物怖じせず堂々と胸を張ってロープウェイに乗り込むことができました。
ピラタスロープウェイについてですが、これはヨーロッパスイスアルプスのピラトゥス山に因んで名づけられたということですが、なんだかオードリーだか春日とかいう人たちが言いそうな名称であります。
ロープウェイに揺られること7分、駐車場での標高はすでに1770mを越えており飯豊の頼母木山よりも高くなっておりましたが、さらに標高は一気に上がり2200m以上の地上へと降り立ちます。
今日は曇り空と強い風が吹いているので予定していた北横岳には向かわず、縞枯山を目指します。
丸い御椀を伏せたような山々に囲まれた平坦でところどころ溶岩が点在している坪庭というところを抜け、丸い御椀の一角に登ります。
縞枯山はシラビソに覆われていて名前の通り縞状に木が枯れています。
何故このような現象が起きているのかはっきりとした理由は分からないということだそうですが、原因は強い風によるものかあるいは溶岩に覆われた痩せた土壌が原因しているといったことが研究者によってあげられているようです。
今回の山行では残念なことに雪が積もっているので縞枯現象を見ることはできませんでした。
縞枯山を登りきると次に目指す御椀は茶臼山です、あまり急でない道を一旦下ってまた登りきると樹林帯に囲まれた山頂に着きます、見晴らしはまったくありませんが、山頂から縦走路を外れて約3分程度の展望台に行くと180度ほどの展望を得ることができました。
それにしても茶臼山あるいは茶臼岳といった山名はよく聞きますが、調べてみたところ日本山名辞典に載っているもので茶臼がつくところは59ヶ所もありました。
茶臼山からはとにかくひたすら下って冬季閉鎖中の国道を横切ったところに今日の宿泊地である麦草ヒュッテに到着しました。
部屋は大部屋で6割から7割程度の入りで広々と過ごすことができました、部屋は広いのですがスタッフが少人数のため登山客は多くてもいつもこの程度しか入れないということです。
広々として雰囲気も明るく、水やお湯は使い放題。
八ヶ岳に良く泊まりに来ている他の人たちの話を聞くと、他の冬期営業小屋にくらべて大変に快適に泊まることができる小屋だということでした。
夜は部屋のストーブの脇で同じ宿泊部屋に居合わせた皆さんと宴会が始まり楽しい話で盛り上がりながら夜は更けていきました。
ちなみにどんなに酔いがまわっても時折織り交ぜる横文字は絶対に忘れることはありませんでした。
そして翌日、新潟では考えられないような見事な青空の中、往路を戻りますが一旦ロープウェイ山頂駅手前の坪庭まで行き、そこから昨日行かなかった北横岳に登って帰る予定です。
大らかな景色の坪庭からやや急な登りにかかり途中の北横岳ヒュッテで一息ついてから山頂を踏むことができました。
展望は北八ヶ岳随一と言われている北横岳の山頂で澄んだ青空の下、今回の山行のクライマックスを迎えると同時にこの山行のフィナーレを迎えるに至りました。
実は今回は雪山初心者を連れて雪山に泊まろうということとスノーシュー体験ツアーという名目を兼ねての山行でした。
しかし初心者をいきなり北八ヶ岳に連れて行くのではなんだと思い、一週間ほど前に地元の山でスノーシュー、ワカンさらにアイゼンの練習登山を実施してから今回の本番とでも言えばいいのでしょうか、北八ヶ岳スノーシューツアーへと臨むことになりました。
それにしても今年の積雪は例年の倍ということでしたが、いつもの年ならどの程度なのでしょうか?もしかしたらスノーシューやワカンなどいらないところなのかもしれませんね、と言ってもあれだけ多くの人が入山しているのでトレースはしっかりついているどころかよく踏み固められていて坪足でも十分に歩くことができるのではないでしょうか。
初心者を連れて一泊でのスノーシュー体験や冬山を安全に体験するにはもってこいのところだったと思います。
私自身としても旅行気分で楽しく、そして今年の登山のための体慣らしにちょうどいいハイキングだったかもしれません。
下山後、家にある八ヶ岳の数少ない文献を引っ張り出し、さらに少々資料を入手してみました。
しかしにわかに調べてみても北八ヶ岳に関して僅かなことしか知ることはできません、北八ヶ岳側には山岳信仰の話も皆無でしたし…。
山中には多くの池があり、その池に纏わる悲恋伝説があることが分かった程度で、これは北八ヶ岳を紹介するようなところではよく掲載されているようなものでありますが、せっかくなので最後にそのことを書いておこうと思います。
北横岳の近くに雄池と雌池の二つの池から成っている双子池がありますが、その池には竜神が住むと言われていたそうです。
地元の名主与七郎の息子が雨乞いのため人身御供となって雄池に身を投じたところ恋仲であった隣村の名主作男の娘のお染が後を追ったが間違って雌池に身を投じてしまった。それから年に一度大雨が降り、池は増水して雄池と雌池が繋がるという伝説です。
それから今回宿泊した麦草ヒュッテに近くに白駒ノ池がありますが、この池にも似たような伝説がありました。
麓に住む長者の娘が慕っていた男のことを娘の父親はこころよく思ってなく、やがて父親は男のことを山奥に追いやってしまった。長者の娘は男のことを追い山中を探し回っていたところ白い馬が現れて娘を池まで連れて行き、男はこの池の中にいると言われそのまま池に身を投じてしまった。それから娘も男も姿を現すことはなかった。白駒ノ池の白駒とはこのときの白い馬のことを言うのだそうです。
追記
あれから数週間が過ぎ、その間に私はいくつか近くの藪山に登りました。
藪山ではおしゃれな服装では大変であり作業服スタイルがいいということは説明する必要もないことかと思います。
でも一度あのおしゃれな服装の時の優越感を味わってしまうとなかなか抜け出すことができません。
ただ、おしゃれをするということはお金が掛かります。
シャツは100円のもので済んでいたのが500円になり、ズボンは1580円から2980円に大幅アップ。上着に至っては今まで仕事で来ていたものを払い下げて来ていたところを近所の呉服店からセール品の500円のものをなんとか見つけ、さらに手袋は298円のゴム手袋が980円の綿入りナイロン製のものになりました、ゴムの方が防水性が高いのに…。
それからそんな高級な服を着て汚したらもったいない、作業服なら平気で汚せるのに…。
おしゃれとはお金が掛かるうえ我慢も必要のようです。
今後、おしゃれスタイルで藪山を歩くときはどうしたらいいか、ひとつ課題ができた北八ヶ岳山行でありました。