令和1年10月17日

 

明神山~大倉山

 

 

 

北魚沼付近の地図を見ていると道は無いものの、興味を惹かれるような山が多く載っています。

 

そんな中の一座、明神山とその奥に聳える大倉山へと足を運んでみました。

 

明神山までは以前は道が整備されていたようで地形図には破線が記されています。

 

令和に入った現在は道がどうなっているか分かりませんが荒れてはいるものの踏み跡くらいはあるだろうから大変なのは明神山から先になるだろうと考えて向かいました。

 

道は魚沼中心部からどんどん山奥へ入って行き、最奥の三ツ又集落からは草生い茂る林道を進むようになり、行き止まりとなったところに車を停めて歩き始めました。

 

登リ口まで車が行けなかったのは予定外でしたし、何より生い茂るススキが朝露に濡れていてその中を全身ずぶ濡れになりながら2キロほどの林道を歩かされたことには閉口させられながら、それでもどうにかこうにか地図上で破線のある尾根の下に到着しました。

 

林道から何となく尾根に向かって踏み跡があり、そこを進んでいくと見事に刈り払われ、普通の登山道並みに整備された道が延びていて、しかも急な出だしのところには最近付けられたような新しいロープが垂れ下がっています。

 

これではあまりに普通の登山道すぎて少々戸惑ってしまい、まるで魚沼まで低山ハイキングにきたような少し残念な感覚で歩き始めたものの、その一方ですぐに道が途切れるなんてことはよくあることで、この整備された道はどこまでもずっと続いていてほしいと考えながら進んでいきました。

 

道は最初の急登を過ぎると平坦となり、越後駒ケ岳や荒沢岳、平ヶ岳など銀山平の山々も遠望でき、秋の柔らかな日射しが注がれる気持ちの良い尾根となっています。

 

さっきの林道歩きで濡れた作業服や靴は滑りやすくてとても歩きにくかったのですが、それが少しずつ乾いていきます。

 

朝露とともに木や葉、土の匂いなどが染み込んだ作業服は渇きが進むと同時に山特有の匂いが強くなってきます。

 

私は年齢を重ねるごとに身だしなみに注意するよう努めており、いつも石鹸の香りがする爽やかな男子を目指しているところでありますが、それなのに道の無い山を歩くと石鹸の香りどころか山の匂いに包まれてしまい、これには大変に困っているところです。

 

しばらく歩きやすい尾根上につけられた道を進むと、やがて道は尾根から外れて山腹をトラバースするようになりかなり歩きにくくなるうえ、道も徐々に不明瞭になっていきます。

 

トラバース道は延々と続き、いつしか明神山山頂の裾野を通り過ぎ、おかしいと思うようになります。

 

おそらくこの道は鉱山道か何か、とにかく別の目的でつけられた道なのではないかと思うのですが、この道を辿って行って果たして明神山に至ることができるのか少々不安になりますが、とりあえず信用して進んでいくしか手立てがありません。

 

疑心暗鬼に陥りながらも探り探り不明瞭なトラバース道を進んでいくと、やがて左側の斜面から古いトラロープが垂れ下がっている場所に出ます。

 

トラバース道はまだまだ延々と続いているようですが、明神山はトラロープの垂れ下がっている方向なので有無を問わずにそのトラロープを辿って行くと、ようやく歩きにくかったトラバース道から解放され再び明瞭な道が戻る方向に現れて、そこを登り切れば明神山の山頂に出ることができました。

 

人が10人ほどで満杯になるような狭い山頂からは素晴らしい大展望を得ることができます。

 

私は山頂でしばしの休憩をとりながら、明神山について考えてみました。

 

明神様とは神様の尊称という意味であることは事前に調べていて分かっていたのですが、明神山については詳しいことは定かでなく、これはあくまで私が感じたことなのですが、旧広神村付近から山頂は近すぎて見えないようで、この明神山は山麓の御鎮守様として崇められてきた山ではないように思いました。

 

この付近は鉱物資源採取が盛んに行なわれていたそうですが、例えばそれら採掘者によって神様が祀られたのではないかと考えました。

 

素直に山頂に向かってつけられていない道であることからして元々は鉱山道だったものなのではないかと感じました。

 

さて、これからいよいよ大倉山へと向かいますが、明神山から岩峰の様相を呈した大倉山が大きく見え、果たしてあの痩せて急峻な尾根を無事に登れるものか少し心配になります。

 

明神山からすぐのところにある明神池までは踏み跡が続いていて、大倉山へ行く前に池の畔までちょっと寄り道してみました。

 

山頂直下に忽然と現れる明神池は地図上では神秘的な雰囲気を醸し出しており、もしかしたら蓮の上に座っている明神様に出会えるかもしれないと思って畔まで行ってみたのですが、残念ながら神秘的というよりもどこか不気味な感じがして、明神様どころか池から手が伸びてきて引きずり込まれそうな怪しい雰囲気を感じ、結局のところ長居はせずに早々に立ち去り、最終目標である大倉山を目指して道がまったく無くなった尾根を進んでいきました。

 

いよいよ明神池から道は無くなったものの、しばらく進むとところどころ踏み跡が現れるようになります。

 

確かに藪ではあるものの明らかに踏み跡がついていますし、プラスチックの境界杭も一定の間隔で確認することができ、人の入った形跡が確認できます。

 

僅かでも踏み跡があると格段に歩きやすくなり、これにはとても助かりました。

 

日当たりの良いところでは藪が濃くなり一時的に踏み跡は消えてしまうものの、基本的に藪をかき分けると足元に道があるといった具合で進んでいくことができました。

 

そしていよいよ山頂直下の最後の登りまで来ると、そこは遠くから見えた痩せた岩場のところとなっていて、ここまで来ると灌木は無くなり草付きの中につけられた明瞭な道を悠々登り切って狭い大倉山の山頂に着くことができました。

 

今年は紅葉がかなり遅れているようで、山頂からはようやく色づき始めた魚沼の山々が一望できます。

 

越後三山から荒沢岳や平ヶ岳といったメジャーな峰々、あるいは桧岳や毛猛山といった未開の地に聳える名峰、そしてすぐ近くの唐松山が綺麗な三角形を秋空に描いております。

 

唐松山方向に踏み跡が続いているようなので、少し進んでみるとすぐに灌木の中に踏み跡は消えてしまいました。

 

山頂には三角点が埋められているほかに古いものと思われる三角点の石柱が転がっていて、さらにその傍らには大きな寝転がるにはちょうどいい大きさの岩があったので、しばらくそこで横になって静かな魚沼の山を満喫しながら、朝露がまだ完全に乾ききっていない身体の日干しをしました。

 

身体や来ている作業着と靴からは相変わらず山の匂いが漂っていて、乾けば乾くほど匂いは強くなっていきます。

 

今日は下山後に通夜に行かなければならず、臭く汚いままではいられません、いつものように石鹸の香りがする爽やかな男子に戻らなければなりません。

 

匂いがとんでしまうほど必要以上に乾かせばきっとまた元の美しい爽やかさを取り戻せるはずです。

 

しかし、ひとしきり日干しをしたものの匂いはどんどん強くなりばかりで、とうとう下山時刻となってしまい、大変に臭くなった身体で下山の途に就きました。

 

 

 

コースタイム

 

林道車止め 30分 登り口 1時間50分 明神山 10分 明神池 1時間50分 大倉山 1時間20分 明神池 10分 明神山 1時間15分 登り口 20分 林道車止め